ニューヨーク市に交通渋滞が戻ってきた。新型コロナのワクチン接種が進み、経済が本格的に動き出した証だ。一部運休していた地下鉄は24時間運行を再開し、コロナは過去の話になりつつある。緊急事態宣言が続き、いまだに先が見えない日本との差が一段と鮮明になっている。

 

 コロナ前のニューヨーク市の渋滞は慢性的だった。地図で見るとマンハッタンを縦に走る「アベニュー」と横に走る「ストリート」はともに車で埋め尽くされ、車に乗ってしまうと、朝や夕は、わずか2ブロックを移動するのに15分もかかってしまうことも珍しくなかった。急ぎだからといってタクシーを捕まえて、ほとんど動けずにあきらめて下車することなどは、当たり前のようにあった。

 

 コロナで市内から人々が去り、ビジネスが止まったことで街の交通事情は一変した。街から車が消えたのだ。コロナの感染拡大から1年以上たった4月下旬にリポートした際も、中心部に交通渋滞はほとんどなかった。

 

 ところが、それからわずか1カ月で中心部に交通渋滞が戻った。週末の夕方、渋滞に巻き込まれ、にっちもさっちもいかない車が横断歩道の上で身動きがとれなくなっている光景が、あちこちで見受けられた。

 

 ビジネスが再開し、車が多くなったことが渋滞の最大の要因だが、厳しい営業制限を課せられたレストランやバーの救済策が交通事情をさらに悪化させている。

 

 

写真

 

 

 上の写真はマンハッタンの東側、53ストリートだ。国連本部にも徒歩で行ける距離にあるレストラン街だが、3車線の道路は左右両方の歩道寄りの車線に小屋が立ち並んでいる。車が通れるのは中央の1車線だけだ。

 

 小屋はレストランが屋外での飲食用に設置した。ニューヨーク市は感染拡大を防ぐため飲食店の営業を厳しく制限した。昨年3月、全米でのコロナ感染の震源地となった際、真っ先に手をつけたのが飲食店の営業規制だった。以前も報告したが、一時、屋内での営業を全面的に禁じたため、救済策として、店の外に小屋などを設けて営業することを認めたのである。

 

 ワクチン接種が進み、新規感染者が減少する中、規制は段階的に緩和され、先月末、ついに飲食店の屋内での営業規制が解除された。ニューヨーク市内では1万を超えるレストランやバーが店の前に小屋を設置している。中には30万ドル(3100万円)以上の費用をかけて建設した「豪華版」もある。大方の飲食店経営者は、この屋外での飲食スペースを当面、維持する予定だ。また感染が拡大しかねないし、建設コストを考えれば、まだ撤去できない。

 

 そもそも外での食事が好きなニューヨーカーにとっては、屋内での飲食が全面解禁されても、屋外の小屋での飲食を選ぶ傾向にあり、小屋は親しみのある存在になりつつある

 

 飲食店経営者は、小屋の設置について来年いっぱい、ニューヨーク市都市計画局の許可を得ている。当面は車道をふさぐ小屋が消えることはなさそうだ。

 

 ニューヨーク市内の交通量は短期間で爆発的に増えた。小屋によって車の走行車線が減少した分、渋滞は激しさを増す。今後、想像を絶する渋滞がニューヨーク市内で起きるかもしれず、市民生活の一大不安要因になりそうだ。

 

 

写真

 

 

 一方、地下鉄も24時間運転を再開し、1年以上たって、ようやく通常運行に戻った。ニューヨーク州都市交通局によると、ニューヨーク市内の地下鉄の5月の1日当たりの利用者数は220万人だった。全体の利用者数は前年に比べ約65%ダウンしたという。

 

 原因は地下鉄内の治安の悪化だ。

 

 不衛生な車内での感染を恐れて、人々は地下鉄を敬遠した。人目が減れば治安は悪くなる。感染リスクが軽減し、利用客が戻る傾向にあっても、治安の悪さがそのペースを遅らせている。

 

 乗客数が減っているため地下鉄内での事件発生の総数は前年比で減っているが、乗客1人当たりの犯罪に巻き込まれる確率は上昇している。市民はそれを肌で感じているのである。

 

 何の前触れもなくホームで襲われ、線路に突き落とされたり、ナイフで刺されたり、銃で撃たれたりする。逃げ場が限られる分、避けようがなく、深刻な事態を招く。

 

 ニューヨーク市警察本部は地下鉄内をパトロールする警察官を増員した。ニューヨーク州都市交通局は駅の監視カメラの数を増やし、約70%の駅に設置した。

 

 今年、ニューヨーク市長選が行われるが、地下鉄の治安問題は市長選の大きな争点となっている。

 

 

****************************************

Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

****************************************