終戦後、焼け野原と化した大阪で屑鉄泥棒、通称「アパッチ族」と呼ばれた集団がいた。今回は、彼らを題材にサイエンス・フィクション(SF)仕立てで『日本アパッチ族』を書き上げた作家、小松左京を取り上げる。(写真はYahoo画像から引用)

 

 屑鉄泥棒-アパッチ族とは何か。戦前の大阪には陸軍砲兵工廠(=写真)があり、米軍からの爆撃を繰り返し受けたという。空爆後、コンクリートと鉄骨がむき出しとなった無残な姿だけが残った。

 

 砲兵工廠の跡地には雑草が生い茂り、誰も寄り付かない廃墟となってしまった。当時、戦後のどさくさで工廠跡地の鉄屑を盗み出し、それを回収業者に売り捌いて生計を立てている人たちがいた。彼らこそアパッチ族と呼ばれた人たちだった。

 

 『日本アパッチ族』では、屑鉄泥棒から鉄を食う怪物(食鉄人種)が変貌し、大阪から日本全国に進出。鉄でできているものを食い尽くし、やがては政治や生産機構までも揺るがす勢力になるというストーリーが展開される。

 

 無論、架空の物語だが、鉱物・エネルギー・食糧といった分野で資源獲得競争に躍起となる爆食国家の中国を連想する人たちもいるのではないか。AI(人工知能)が人間を支配するというシナリオはもはや、サイエンス・フィクションでなく、ノンフィクションとして描かれる時代を迎えた。

 

 『日本アパッチ族』は小松左京の処女長編で、初出は昭和39年(1964)、光文社カッパ・ノベル。小松はこのほか、『復活の日』、『日本沈没』、『首都消失』などの話題作を次々と世に送り出し、平成23年(2011)7月、80歳で死去した。

 

 ところで、アパッチ族を題材にした小説は『日本アパッチ族』だけではない。開高健の『日本三文オペラ』、梁石日(ヤン・ソギル)の『夜を賭けて』が知られている。



在原次郎

 ジャーナリスト。エネルギーや鉱物、食糧といった資源を切り口に国際政治や世界経済の動向にアプローチするほか、コモディティのマーケットにかかわる歴史、人物などにスポットを当てたリサーチを行なっている。『週刊エコノミスト』などに寄稿。