経済産業省・資源エネルギー庁はこのほど、今年度の電力需給見通しを公表した。夏場は電力をかろうじて確保できるとしたものの、冬場はここ数年で最も厳しい状況になるとし、停電発生の可能性にも言及した。日本における電力供給の危機が現実味を帯びてきた。(写真はYahoo画像から引用)

 

 想定される電力需要に対する供給予備力の比率で、電気の周波数を安定維持するには3%とされている。さらに停電などを引き起こさないための目安は8~10%だ。今年度の予備率見通しは、北海道と沖縄を除くエリアで3.7%とされ、とりわけ、東京エリアに至っては供給予備率がマイナス0.2%とかなり厳しい見通しとなっている。

 

 供給予備率が低下する背景として、天候に左右される太陽光発電が期待できないことに加え、脱炭素の動きとして火力発電所の休止または廃止が相次いでいること、原子力発電所の再稼働が思うように進んでいないことなどが挙げられる。

 

 実際、電力危機は今年1月、現実のものとなった。日本列島を大寒波が襲い、暖房需要が急増した。電力需給がひっ迫するとともに、電力価格の高騰を招いた。供給に対する需要の割合で示す電力管内の使用率が100%近くに達する日が続いたほか、電力需要が追い付かない地域に別の地域から送電する融通指示が続発し、電力市場は大きな混乱につながった。

 

 一方、供給不足から電力の卸売価格が高騰。自前の発電所を所有せず、電力の卸売市場で取引する新電力の経営を圧迫した。大寒波による暖房需要の急増で火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)在庫の不足で供給が追い付かなくなった。

 

 資源エネルギー庁の「総合エネルギー統計」によると、2019年度の日本における一次エネルギー供給の割合は、比率が高い順に石炭(25.3%)、石油(37.1%)、天然ガス(22.4%)、太陽光などの自然エネルギー(9.4%)、原子力(2.8%)、未活用エネルギー(3.0%)。

 

 梶山弘志・経産相は先週末、今年の電力需要期(夏・冬)に不測の事態に陥らないよう、事務方に対策を早急に検討するよう指示したという。エネルギー政策のトップ自らが危機感を伝えることで、国民に節電を呼び掛ける狙いがあったようだ。

 

 ところで、国際社会はいま、脱炭素の時代を迎えた。脱炭素の呪縛にがんじがらめとなり、電力供給に支障を来す事態となれば、何のためのカーボンニュートラル戦略か分からなくなる。不安定な供給体制に陥れば、電力を大量に消費する電気自動車(EV)の開発推進にも遅れが生じることになる。太陽光、風力などの再生可能エネルギー比率を上げるのに血眼になるあまり、目先の電力の安定供給をないがしろにするようであれば、本末転倒である。


 

Naoya Abe

Capitol Intelligence Group (Washington D.C.) Tokyo bureau chief

Former Bloomberg News reporter and editor