公益社団法人、腐食防食学会主催の材料と環境2021が、2021年5月19日(水)~5月21日(金)に、オンラインで開催される。2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故から10年が経過した。課題セッション「福島第一原子力発電所事故後の10年間、そして次の10年へ」が、初日の午後13時からA会場で行われる。

 

 講演集によると、地域の人々が、今後の廃炉作業を具体的に把握できるように「廃炉中長期実行プラン」が毎年、改訂を実施し、公表されているとのこと。いったいどのようなものかとネットで検索したところ、2021年版は3月25日に公表されていた。「復興と廃炉の両立」の大原則の下、地域及び国民の皆さまの御理解をいただきながら進めるべく、廃炉作業の今後の見通しについて、より丁寧にわかりやすくお伝えしていくことを目指しているとのこと。廃炉が完了するのはまだまだ先のことのようである。

 

①廃炉中長期実行プラン2021について_r3.5 (meti.go.jp)

 

 

課題セッション「福島第一原子力発電所事故後の10年間、そして次の10年へ」

特別講演:福島第一における廃炉・汚染水対策の現状と課題

 

 廃炉中長期実行プランによると、2020年度の主な進捗は以下の状況である。

 

《汚染水対策》

 ・汚染水は、原子炉内に注入された冷却水が燃料デブリに触れることで発生する。そして、この汚染水と建屋に流入する地下水と雨水が混ざりあうことで新たな汚染水が発生し続けている。

 

 この対処法としては、次の3つの基本方針が挙げられる。

 

① 汚染源を取り除く
② 汚染源に水を近づけない
③ 汚染水を漏らさない

 

 現在はこのうち②の対策が主に実施されている。

 

 地下水・雨水の流入抑制⇒3号機タービン建屋に雨水カバーを設置(2020年8月)

 

 対策後、地下水・雨水の流入は、140m3/日程度に低減(2014年5月実績約540m3/日)

 

 

《使用済み燃料プールからの燃料取り出し準備》

 ・水素爆発とメルトダウンの影響が、燃料取り出しにむけての準備の妨げとなっており、この対応

 1号機の取り出し準備⇒燃料交換機、天井クレーン、崩落屋根の鉄骨やスラブがうず高く積み重なってプールを覆っている。瓦礫除去のための、プールへの瓦礫落下防止及び落下緩和対策のための大型カバー設置中

 2号機取り出し準備⇒燃料取り出し設備製作中

 3号機⇒燃料取り出し終了

 

 

《燃料デブリ取り出し(これまでに経験したことのない取組)》

 ・燃料デブリの分布状況は、ロボット等の遠隔調査機器及び宇宙線ミューオン透過法により実施されてきた。

 現在の燃料デブリの分布の状況は、下記のとおりである。

 1号機:燃料デブリの大部分が格納容器部に存在

 2号機:圧力容器底部に多くが残存し格納容器底部にも一定の量が存在

 3号機:1号機と2号機の中間

 取り出し初号機を2号機(最も障害が少ないため。)と決定したが、英国で装置が開発されているため、新型コロナ感染拡大の影響で装置開発遅延。

 

 

《廃棄物対策》

 ・雑固体廃棄物償却設備増設(可燃物を減容)

 ・不燃物(金属・コンクリート)減容処理設備設置

 

 

《その他の対策》

 ・自然災害対策⇒津波対策を目的とした、建屋の開口部閉止

 

 

<福島第一原子力発電所事故対応、腐食課題と対策関連テーマ>

講演タイトル

 ・福島第一事故後の腐食課題と対策活動

 ・事故直後の使用済み燃料プールに対する腐食対策の評価

 ・IRID事業における腐食評価

 

 事故当時、非常措置として原子炉及び使用済燃料プールへ海水注入による燃料冷却が行われた。使用済み燃料プールライナーにはSUS304相当のステンレス鋼が使用されており、腐食課題とその対策が検討され、実施されている。

 

 最も懸念されたのが、ステンレス鋼ライナー溶接部での、すきま腐食経由のSCC(応力腐食割れ)の発生及び微生物腐食(MIC :Microbiologically Influenced Corrosion)であった。

 

※二日目の20日(木)の午前中9:25からのC会場では、微生物セッションの課題セッションがある。

 

 

具体的対策

 ・脱酸素処理⇒窒素脱気及び脱酸素剤(水加ヒドラジン)の間欠注入(高濃度塩分共存下でのMIC対策として理想的)

 ・アルミ合金ラックのアルカリ性腐食対策⇒ホウ酸添加による中和処理

 ・脱酸素処理の継続により、深刻な腐食損傷は現状認められていない。

 

 材料と環境2021 記念講演および特別講演を紹介する。

 

 

<岡本剛記念講演> 5月21日(金)14:15~15:05 A会場

 金属材料の局部腐食現象の解明と高耐食化へのマイクロ電気化学的アプローチ

 武藤泉(東北大学大学院工学研究科)

 

 ⇒マイクロ電気化学計測による、約200µm×約300µmの試験面における、局部腐食機構を解明及び高耐食化。介在物、析出物、結晶粒界など奥野不均一要因が存在する実材料において、個々の電気化学特性を把握することで、材料全体の腐食特性の理解に貢献。

 

実施例

 ・ステンレス鋼のMnS起点の孔食発生機構及び活性溶解の抑制

 ・炭素鋼(フェライト、マルテンサイト、パーライト)の耐孔食性

 

 

<特別講演>5月21日(金)11:10~12:00 A会場

 腐食抑制剤研究70年-硬い及び軟らかい酸塩基の法則と関連した話題から-

 荒牧國次(慶応大学名誉教授)

 

(参考資料)

 ・https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcorr/62/9/62_334/_pdf/-char/ja(jst.go.jp)

 ・https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcorr/67/11/67_462/_pdf/-char/ja (jst.go.jp)

 

 

 荒牧名誉教授は、陰イオンの化学吸着によるアノード反応の抑制、促進とHSAB(Hard and Soft Acids and Bases)則を関係づけた論文「なぜ陰イオンが酸性溶液中におけるFe腐食のアノード反応を抑制または促進するのか?」が2013年に材料と環境に掲載され、その研究の基礎となった「1M HCLO4中のFe上における陰イオンと有機陽イオンの吸着及び腐食抑制効果」という1987年の論文に注目が集まり、2015年4月にJ. Electrochem. Soc.で最も読まれた論文ランキング4位に入られた。5位は、2019年のノーベル化学賞受賞者J.B.Gooddenoughの論文だったとのこと(吉野彰氏と一緒に受賞された方ですね。)。

 

 当日、なぜこの論文が注目を集めたかについても触れていただける。

 

 荒牧名誉教授は、1952年から腐食抑制剤(インヒビター)の研究を始め、今年で70年になるとのこと。この間、主に行われた研究は

 

(1)吸着、酸化、沈殿インヒビターの作用機構の基礎的な研究(1952年~)
(2)新しいインヒビターの開発(1960年~2000年)
(3)インヒビターの作用機構と硬いおよび軟らかい酸塩基の法則(HSAB則)の関係(1976年~1996年)、および電解質陰イオンの挙動とこの法則の関係から腐食のアノード反応の解析(2010年~)
(4)表面増強ラマン散乱分光法(1984年~1997年)
(5)自己組織化膜の化学修飾による超箔薄二次元重合体保護皮膜の作製(1992年~2016年)
(6)非水溶液中における金属の腐食と抑制(1990年~2000年)
(7)自己補修性保護皮膜の作製(1998年~2006年)

 

 1997年の定年退職後も自分の手で実験を続けてこられたが、年齢と共に体力の衰えを感じられ、81歳(2013年)で、終わりにされた。その後は、これまでの実験研究の蓄積と、それを通じて得られた理論的な解釈に基づいたインヒビターの作用機構の研究を続けられている。

 

講演トピックス

 ・化学吸着と硬いおよび軟らかい酸塩基の法則(HSAB則)

 ・デカメチレンイミンの非常に高い抑制効果と環の歪の関係

 ・酸性水溶液中のFe腐食における電解質陰イオンによるアノード反応機構

 

 

(IRUNIVERSE tetsukoFY)