2011年3月に起きた福島第1原子力発電所の事故以降、政治家たちは原発政策について口をつぐんでしまった。国民の間で原発アレルギーが広がるなか、選挙という洗礼を受ける政治家にとり、原発推進の発言は有権者からの批判を意味し、政治家としての地位を失うことを意味するからだ。ところが最近、変化が生じている。与党自民党の政治家が原発の再稼働どころか、新増設の必要性まで踏み込む発言が顕著となっている。(写真は4月16日に開催された日米会談。「日米気候パートナーシップ」の立ち上げで一致する両首脳=内閣広報室提供)

 

 変化は4月22日、米国が主催する気候変動問題に関する首脳会議(サミット)にオンライン参加した菅義偉首相が、日本は2030年度に13年度比で温室効果ガス(GHG)の46%を削減すると宣言したことで一気に表面化した。

 

 首相の「46%削減」表明の翌日、自民党の電力安定供給推進議員連盟は、国の原子力政策について今夏に改訂されるエネルギー基本計画に原発の将来的な新増設や建て替え(リプレース)を盛り込むことを求める提言を政府に提出。議連の会長を務める細田博之元幹事長は天候に左右される再生可能エネルギーでは電力の安定供給に課題があるとし、46%目標を達成するためには原発を活用しなければならないと強調した。

 

 このほか、自民党は「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」(稲田朋美元政調会長)を4月半ばに立ち上げ、安倍晋三前首相らが顧問に就任した。

 

 地方自治体の動きも目立つ。福井県の杉本達治知事は4月28日、県内で運転開始から40年を超えている原発3基の再稼働を表明した。知事が同意したことで、関西電力が運営・管理する美浜原発3号機、高浜原発1、2号機はいずれも再稼働に向けた準備に移行する。

 

 福島第1原発の事故後、日本では国内に60基あった原発のうち、24基が廃炉になった。現在、33基(3基は建設中)が現存するものの、再稼働しているのは9基にとどまっている。

 

 海外に目を向けると、原発大国である中国や米国などの動きも見逃せない。中国は着々と原発政策を推進している。5大電力会社の一つである華能集団が今年3月末、海南省の昌江原発のⅡ期工事が始まったと発表した。今後、約40億元(約670億円)を投じて2025年に3号機、26年末までに4号機を完成させる計画だ。

 

 欧州では、オランダの非政府組織で原子力産業を支援するe-Lise財団が同国政府に対して原発新設に向けた報告書を作成し、その内容を公表した。オランダには現在、唯一の原子力発電設備であるボルセラ発電所が稼働している。2013年に運転開始後40年を迎えたが、さらに20年間の延長が認められているという。

 

 他方、米国では4月27日、国務省(DOS)がバイデン政権の取り組みとして、国際支援プログラムである小型モジュール炉(SMR)技術の責任ある活用に向けた基本インフラ(FIRST)をスタートすると表明した。DOSは、この計画に530万ドルを投入する方針を示した。

 

 ところで、国際社会ではいま、パリ協定のもと、石炭火力発電への融資を凍結する動きが加速している。脱炭素化を進めるため、欧米を中心に金融機関などが再生可能エネルギー開発への移行を促している。国際的な取り組みの背景に「石油や石炭といった化石燃料に見切りを付けた国際金融資本が暗躍している」との見方すら出ているほどだ。

 

 国際金融資本は見せかけ上、まずは再エネ開発を加速させ、その後は原子力で莫大な利権を得ようとして画策するという、いわゆる、陰謀論と称されるものだ。超大国が存在しなくなったGゼロのなかで、世界全体を支配するのが国際金融資本であるとの見立てである。真偽はともかく、こうした見方がまことしやかに伝わる背景には、世界の原発開発をめぐる一連の動きが連動しているかもしれない。(筆者は陰謀論を裏付ける証拠を確認していない)

 

 福島第1原発の事故以降、原発政策に関連し、思考停止の状態にある日本は賛成派・反対派がそれぞれの主張を繰り返すばかりで、いつまでも平行線を辿り、結論を導き出せないでいる。国際社会が一致団結して取り組むべき温暖化問題は、脱炭素にとどまらず、日本の原発政策のあり方、方向性を見い出す絶好の機会にもなるはずだ。


 

在原次郎

 コモディティ・ジャーナリスト。エネルギーや鉱物、食糧といった資源を切り口から国際政治や世界経済の動向にアプローチするほか、コモディティのマーケットにかかわる歴史、人物などにスポットを当てたリサーチを行なっている。『週刊エコノミスト』などに寄稿。