日本は、電池産業を長い間支えて世界にリードしてきました。しかし近年は韓国、中国などの果敢に挑戦する企業群に越されその地位を保つことが難しくなっております。そんな中で、日本をリードする環境企業のDOWAエコシステム㈱がリチウムイオンバッテリーリサイクルで名乗りを挙げました。MIRUは挑戦する企業に直接単独オンラインインタビューを試みました。その概要をお伝えいたします。

 

 オンラインインタビューを受けて下さった方は、DOWAエコシステム(株)ウェステック事業部、環境技術研究所、企画室の皆様でした。詳細なリサイクルプロセスの説明を戴き、大まかな全体像を以下総括致しました。

 

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 DOWAエコシステム(株)は、2018年10月に(一社)日本自動車工業会が立ち上げたリチウムイオン電池の共同回収スキームに参画しており、電池リサイクル施設としてDOWAグループのエコシステム秋田(株)およびエコシステム山陽(株)が登録されている。

 

 またDOWAは2019年12月よりタイのBPEC社で車載用電池のリサイクル処理も行っている。こちらは主にニッケル水素電池。DOWAのリチウムイオンバッテリーは秋田の固定床炉、エコシステム山陽の固定床炉とトンネル炉を使う。これらの処理能力は日当たり133トンで国内最大。さらに、秋田のロータリーキルン、千葉のロータリーキルン、山陽のロータリーキルンでもバッテリーの燃焼処理は可能で、これを合わせると日当たり180トン以上の処理が可能となる。これらの焼却施設はDOWAの既存炉であり、バッテリー処理のために新規で説委を立ち上げたものではないことも重要なポイントである。

 

 

写真

(エコシステム山陽)

 

 

(事業の全体像)

① 日本国内に3拠点の産業廃棄物の焼却設備を活用する廃棄物処理事業で、その中で熱処理能力を活かしてリチウムイオンバッテリーも熱処理する上流プロセスとして活用している。すでにこの上流プロセス事業拠点が秋田、千葉、岡山で展開しており、その事業拠点を活かした産業廃棄物処理事業の枠組みの中で開始しており、将来も全国を網羅する本格的な事業展開として、事業の将来像を有している。

 

② DOWAグループは、秋田県の黒鉱鉱床と言う大変ユニークな亜鉛、鉛、銅を含有する複雑硫化鉱を開発し、複雑鉱の湿式製錬プロセス技術を活用して、世界でもユニークな銅製錬、亜鉛製錬、鉛製錬を展開してきた歴史的な企業で、その製錬技術は日本の中のみならず、世界でも比較する企業が少ない分野で事業展開して来た歴史的な企業群で、同社の看板は遺利回収の精神があり、難しいバッテリーリサイクルには相当の知識が集約されていると思われる。

 

③ 同社は、まず商業的な展開が可能な分野、即ちリサイクルプロセスの第一段階で事業化を開始し、第2段階では湿式製錬技術を極めて、バッテリー使用されている全ての金属を、可能な限り変質させないで回収金属の特性を活かして回収するプロセスを極めた様である。

 

 

(事業の課題)

 バッテリー性能を極めた結果、使用されている金属、鉱物は多くの物質・元素に及んでいる。その結果リサイクルしようとするとその原料組成は、制約のない広がりになっている。しかもバッテリーの形状も、バッテリーが自動車用にパッキングされた状況も様々となっている。これを同社が保有する10トン規模から60トン規模までの焼却設備で、熱処理条件で精密に管理して700℃以上の還元雰囲気で熱処理する。

 

 バッテリーの負極で使用される黒鉛電極材の耐熱性を維持する為に使用する有機バインダーの熱処理による熱分解が熱処理条件を左右する要因となっている。バインダーが熱分解する事で、電極材料の各金属が相互分離しやすくなる。

 

 またニッケルやコバルトは磁性により分別を可能する磁力選鉱で回収され、リチウムは水溶性を維持した状態で回収が可能になる。しかしこれだけの処理を想定すると、要する費用は、回収して得られる便益の数倍となる為、リサイクル費用を補う、処理費用の補助なしには、リサイクルは循環しない可能性が高い。

 

 自動車が電化していく速度は、欧州主導から米国・中国まで巻き込んだ国際的な流れが速まったとは言え、EV車寿命は10年間に近づくとみられるので、今から10年後の廃車需要は容易には計れない。従って廃車需要よりも寧ろ自動車生産拠点でのバッテリーチェックによる工程発生品のリサイクル需要が当面は先行する可能性が極めて高いと思量される。

 

 ではリサイクル寿命が本格するまで、各国はどう廃車対応を展開するのであろうか。

 

 日本では、既に欧州とは異なる社会制度を自動車リサイクル法で確立している。リサイクル処理困難物のみに消費者から処理費用を徴収する仕組みである。しかしこれまでの処理困難物に比べてEV車のバッテリー重量は、バッテリーを支える容器を含めると相当な重量となる。しかし既に廃車重量の3割程度を占めたシュレッダーダストを対象としたリサイクルシステムが完成しており、これを参考してバッテリーリサイクルを制度に枠組みに組み入れる事で、少なくとも日本国内の自動車リサイクルシステムは維持されるのではないか。

 

 最後の課題は、全国の津々浦々まで回収システムが整備されている日本では、自動車リサイクルシステムが既に完成され機能してきたのは、自動車から鉄や部品を回収するリサイクルシステムが存続して来た事で安全と安心が保たれてきた。この仕組みが崩壊すると狭い国土の日本はごみの行き場を失いかねない。従って、これまでの自動車リサイクルシステムとの共存・共栄の道を模索するべきである。その点は経済産業省と環境省の共同作業が必要である。

 

 秋田県に生まれたDOWAはかねてより、社会が困っている課題を解決するという崇高な精神で企業を牽引して来た、モラル集団である。この様な企業が存続する限り、日本がゴミに埋もれる懸念はないであろう。しかし精神だけでは国の安全や衛生、更に廃棄物問題で世界的な競争力は保たれない。日本はこのような逞しいユニークな企業の循環型社会を支える力を涵養していきたいものだと痛感した。

 

 

(IRUNIVERSE Katagiri&Tanamachi)