公式の場で口喧嘩をするのが外交パフォーマンスの新潮流となっているのだろうか。3月に米アラスカ州で開催された米中外交トップ会談では、中国共産党の楊潔篪・中央政治局委員とブリンケン米国務長官とが冒頭あいさつから険悪なムードとなり、非難の応酬となった。同じような舌戦が4月15日、ギリシャ、トルコの両外相会談後の共同記者会見でも繰り広げられた。(写真はYahoo画像から引用)

 

 ギリシャのデンディオス外相がトルコの主権侵害について言及し、口火を切った。トルコのチャブショール外相は即座に「このようなことは断じて受け入れることができない」と反論し、両国の関係改善を模索する場は一瞬にして両国の緊張状態を露呈する修羅場となった。もっともアラスカの米中会談も口論の後、実務レベルでは建設的な議論が交わされたという。同じく、今回の丁々発止のやり合いが両国関係を直接的に傷つけるものではない。

 

 ギリシャ政府はこの一件後、トルコとの交渉継続に前向きな意思を表明している。だが、儀礼の場におけるトルコの失態「ソファー事件」は記憶に新しい。先日、トルコとの関係改善を模索する欧州連合(EU)の特使として、欧州委員会のフォン・デ・ライエン委員長と欧州理事会のミシェル議長がトルコを訪問した際、フォン・デ・ライエン氏のイスが用意されず、ソファに座らざるを得ない事態に陥った。フォン・デ・ライエン氏は先月のEUサミットの会見で、喫緊の課題であるコロナワクチン問題と並んで、トルコの人権状況、民主主義の危機に憂慮を表明していた。

 

 トルコのクルド系政党・人民民主党(HDP)に政党閉鎖の申し立てがなされていることを非難したものだった。女性蔑視だとか的外れな批判がなされていたが、HDPの問題に言及したことへの意趣返しであろう。いずれにしてもトルコは自らEUと関係改善の意思がないことを見せつけた。今回はトルコが仕掛けたものではないが、ギリシャよりトルコの対面を傷つける結果となった。東地中海において積極的に他国の権利を侵害しているのは、トルコのほうであるからだ。ギリシャが会見の場で「主権侵害」に言及したことは、トルコとの交渉に進展がなかった、更にはその誠意も期待できなかったことを示す。

 

 ギリシャは、その後も相次いで東地中海問題における同盟諸国との会談を続けた。舌戦の翌日16日には、キプロスでイスラエル、UAE、キプロスの外相らと東地中海の資源問題について協議。ギリシャとイスラエルは18日、防衛協定を締結した。イスラエルは、ギリシャにおける空軍の訓練施設設立、航空機の近代化を支援する。トルコ国営通信も「イスラエルがギリシャへ16億ドル規模の軍事支援を決定」と報じた

 

 トルコは、ガス田掘削作業開始以前からヘリや戦闘機によるギリシャの領空侵犯を繰り返してきた。空軍力強化はトルコの軍事的圧力に対抗していく上で最大の課題であり、協定は東地中海のトルコ包囲網強化において大きな進展であった。ギリシャ外相は同日朝、トルコの東地中海進出を警戒するエジプト外相とも会談し東地中海問題について協議した。

 

 トルコとギリシャの両外相会談後、トルコ包囲網が一層強化されることになった。トルコと対立する各国は対話による解決を諦めていないが、トルコが誠意ある対応をしない限り、各国は最悪の事態を想定し、防衛力強化、軍事同盟の構築に努めるようになるだろう。今回の舌戦は、東地中海問題の結末を暗示する一幕でもあったようだ。


 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。2020年7月、日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語も学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指す。