水素が自動車を動かしている姿を見たことはありますか?都バスが水素燃料電池車を走らせています。東京駅から東京ビッグサイトの展示場までを水素バスが運行しています。また、東京・江東区には岩谷産業が運営する水素ステーションがあります。バスは発進もスムースかつエンジン音がなく、当然ですが静かです。

 

 しかし水素を製造している会社の宣伝はあまり聞きません。どこで水素をつくっているのでしょうか。全く不思議です。そうしたことを考えていると、水素を安全に貯蔵・運搬する技術を開発していた北海道大学の市川勝先生が著した『水素エネルギーがわかる本』(オーム社)を市内の図書館で偶然見つけました。

 

 

1.水素の製造方法

化石燃料から生産される水素生産

 

表

 

 

 世界では既に天然ガス水蒸気改質による水素製造が行われており、世界メーカーの約50%がこの製造方法を採用しています。しかし日本では現在、生産されている水素は①アンモニア、メタノール、肥料の原料、②シリコン・光ファーバー製造に消費されています。

 

 生ごみ、家畜糞尿などからバイオガス、下水処理場の消化ガスなどからも水素は生産されます。産業界では、半導体製造工場の基板洗浄廃液中の排メタノール、化学・金属製造工場の排ガス中の副生水素も活用が可能です。

 

 

2.バイオ水素発酵とメタン発酵による水素製造

 バイオ水素をつくる微生物は①光合成微生物、②有機物や無機物の酸化を利用する嫌気性微生物の反応があります。バイオ水素は二酸化炭素が数%含まれるが高純度水素が期待できます。燃料電池用にガス精製しないで活用することが可能です。光合成菌を用いたバイオ水素の製造事例では、有機性排水が利用できるほか、木質系バイオマスにも適用可能です。サッポロビールと島津製作所では、ビール残渣、食品製造残渣、デンプンから水素発酵とメタン発酵の2段発酵で出来た水素とメタンのガス改質を組み合わせ、燃料電池で電力を生産しています。

 

 

3.石油精製、コークス・製鉄産業の膨大な潜在水素

 石油精製、コークス・製鉄、食塩電解では、大量に発生する副生水素を自家消費していますが、余剰水素が100億Nm3は活用可能とみられています。しかし各工場は全国に分散して配置されているため、活用には水素の安全な貯蔵と運搬などといった課題もあります。米国と日本の水素製造能力はそれぞれ、900億Nm3、450億Nm3と見積もられています。

 

 

4.夢のメタン直接改質法、メタンから水素とベンゼンをつくるMTB触媒

 MTB触媒モリブデンとレニウムとゼオライトからなる触媒です。北大チームが開発した触媒は、メタンからゼオライト触媒で水素を剥ぎ取り、メタンを縮合して、ベンゼンへ転換します。

 

 このMTB触媒が素晴らしいのは、天然ガスやバイオガスからCO2を排出せずに、水素とポリスチレンやナイロンなどプラスチックが製造でき、繊維の原料となるベンゼンを製造できることです。

 

 メタンの資源は海底にメタンハイドレートとして日本の周辺海域に存在しています。従って水素資源が海底から取り出せると、MTB触媒が活躍できると期待されています。

 

 

◆水素を安全に液体で貯蔵・輸送-有機ハイドライド

 有機ハイドライド(ゆうきハイドライド)とは、適切な触媒反応を介して水素を可逆的に放出する有機化合物、特にメチルシクロヘキサンやシクロヘキサン、デカリンなどの飽和縮合環炭化水素を指す。水素を液体状態で貯蔵する技術に利用される。

 

 シクロヘキサンやデカリンは加熱した白金触媒により脱水素反応を起こしてベンゼンやナフタレンに化学変化する。また、逆の反応(水素化)も可能である。これらの可逆的な反応は、水素と有機分子との共有結合が解離/結合することで、水素分子が放出/貯蔵されたものと見なせる。そしてこの反応を応用した水素貯蔵システムを北海道大学触媒化学研究センターの市川勝教授らが開発した。水素を蓄えた有機ハイドライドは化学物質として安定な液体であり、貯蔵や輸送に適している。また、簡易な装置により、非常に大量の水素ガスを吸着し、高速でこれを放出できることから、有機ハイドライドを利用した燃料電池の検討などが行われている。

 

 なお、触媒反応にはある程度の熱源が必要となるが、産業技術総合研究所コンパクト化学システム研究センターの白井誠之氏らにより超臨界二酸化炭素を利用する低温での反応も研究されている。

 

 カルバゾールおよび誘導体にも同様の性質が知られ、検討の対象となっている。

 

次回予告

 期待される水素社会構想 (その2)  「水素はどこへ行ったの?」

 

 

(IRUNIVERSE TK)