3月23日、ABRI(Australian Battery Recycling Initiative)こと豪州バッテリーリサイクルイニシアチブによるウェビナーが開催された。危険物としてのバッテリーの取り扱い方(輸送と廃棄方法)に焦点が当てられており、現地の行政機関や業者などを主な対象としていると思われる内容であった。以下に簡単にまとめたい。

 

 まず、ABRIの簡単な紹介から。豪州バッテリー業界の声を統合する非営利団体であり、企業などの提携協力やネットワーク作りに関するハブとしての役割も果たしていること、会員は最新の研究資料や市場情報などにもアクセスできることなどが説明された。メンバーには、Canon、CSIRO、AGL、Cleanawayなどの大手企業から、Lithium Australia、Neometals、Envirostreamなどをはじめとするバッテリー系の注目豪州企業、また各州政府や大学の名も挙げられていた。

 

 さて、豪州にはAustralian Dangerous Goods Code(ADG)と呼ばれる危険物ガイドラインが存在するが、これは国連の定めるUnited Nations Model Regulations on the transport of dangerous goodsを基にして、豪州独自の加筆や修正が加えられたものであるという。ただしADG自体はあくまでregulation、規制であるようで、このADGに法的な制約を加えるのが各州政府の役割であるということであった。よって、州ごとに法制化の状況は異なっている。

 

 次に、具体的にバッテリーの輸送方法について。まず大前提として、混合バッテリーは車か列車か、つまり基本的に陸路による輸送のみが可能である点が強調された。これは、混合バッテリーの中にはリチウムイオン電池が含まれている可能性が常にあるため。そして輸送の際には、先に述べたADG、そしてそれに基づく各州の法規制などに沿った方法で行われなくてはならない。

 

 バッテリーのリサイクルが重要な理由としては、以下の6つの観点が紹介された。

 

  1.資源保護:バッテリーは再生不可能な材料で作られているから
  2.安全性:他の廃棄物やリサイクル収集に対して有害な汚染物質である
  3.環境保護:腐食性、環境に漏れ出て害を及ぼすような毒性を有している
  4.火災安全:一部のバッテリーはショートや破損により火災の可能性がある
  5.環境開発:バッテリー回収とリサイクルが生む現地雇用と環境への良い影響
  6.廃棄物処理:顧客依存の状態が続くとバッテリー廃棄物の問題はより深刻に

 

 また、日本はこの図の中に含まれていないようだが、国ごとにバッテリー回収率を比較した表は以下の通り。豪州の回収率の低さに驚く。

 

 

グラフ

図:各国のバッテリー回収率比較(ABRIウェビナー資料より)

 

 

 バッテリーのタイプとしては、今後はリチウムイオン電池のシェアのますまず拡大されることが予測されている。リチウムイオン電池は火災の問題が付き物であり、したがってリチウムイオン電池の普及により火災事故も増えている昨今、安全性への配慮は、全世界的にますます欠かせないものとなっている。いくつか火災事故関連の報道の一部も紹介されたが、その中には、2019年のJapan Newsの報道として、「日本容器包装リサイクル協会は2018年に128件の事件を記録。これは2017年の倍以上の数字で、2013年と比較すると4倍にも及ぶ」との文面も見られた。

 

 リチウム電池の問題点としては、反応性の高さ、バッテリーの中身が圧力を受けた状態にある点、そして先に述べた可燃性であるが、バッテリーがダメージを受けたりパンクしたりした場合、リチウムが空気中の水(水蒸気)に反応し、“熱暴走(thermal runaway)”と呼ばれる現象が起きるという。この現象は止めることのできない連鎖反応であり、温度の急上昇を引き起こすため、結果的に火災が発生する可能性が非常に高いとされている。なお、瞬時に火災が起こる場合もあるが、暫くしてから炎が発生する場合もあるということなので、その辺りにも注意が必要だ。

 

 続いて、混合バッテリーの処理方法。これは各家庭へのアドバイスというよりは、業者やリサイクル機関に向けて。まずは安全性の確保が第一であるため、手袋や眼鏡(ゴーグル?)、ブーツなど身を守る製品、そしてフォークリフトの操作やメンテナンスを慎重に行うことも非常に重要であると説明された。いざ火災が起きてしまったらどうするかというリスク管理と火災への備えも欠かせない。

 

 バッテリーを輸送処理する際の容器にも気を配る必要がある。国連によって承認されている容器を使用する必要があり、また、ADGにもバッテリーのタイプごとに細かい規則が定められている。国連認可の包装容器には、以下のような目印が付いていることにも注意されたい。

 

 

図

図:国連からの認可を受けている包装容器であることを示すマークの例(ABRIウェビナー資料より)

 

 

 また、プラスチック容器の場合、5年以上経っているものは使えないという規則もあり。これは先に述べた国連の認証スタンプを確認すれば日時がわかる。一方、金属製容器の場合には、使用目的に応じた、十分な強度の電気的に非伝導性のライニング材(プラスチックなど)を取り付ける必要があるそうで、ADGには認められている包装方法ではあるものの、ABRIは、リスクが高いとして金属製容器の使用自体を薦めないとしていた。

 

 ドラム容器は、修正が加えられていない元々の形でのみ使用可。ただし蓋に関しても細かな規則あり。また、ドラムライナーは1度きりしか使えない、つまり使い捨て。そして、いずれの容器を使用するにしても、認識が正しいか、あるいは最新情報であるかどうか不確実な場合には、州政府などに適切な機関に確認することが推奨されていた。

 

 次に、バッテリー自体の処理方法。ADGには、適切かつ安全な、コントロールされた方法で処理されることと書かれている。より詳細には、ショートして危険な熱を発生することのないように、セルとバッテリーの設計と梱包を確実に行うこと、そして輸送の際に大きく動くことのないように、セルとバッテリーを外箱の中で固定させることが求められる。

 

 以下に、バッテリーの種類別にいくつかの包装例を示す(写真では見やすいように青いテープが使用されているが、実際には透明のテープが推奨されているとのこと)。ボタン電池などは、全体を包むようにすれば何個もまとめて1つのテープで包装できるようだ。

 

 

図

写真:バッテリーの種類別処理例(ABRIウェビナー資料より)

 

 

 外箱の中での固定に関しては、不燃性かつ非導電性の緩衝材を使用するか、密閉式のビニール袋を使用するなどの方法が紹介されていた。また、バッテリーは、予期せぬ化学反応が起こる可能性もあるため、危険物は勿論他の製品と一緒に包装してはいけない。そして、輸送時には、特定のラベルや内容物の詳細などの記載も必要となる。

 

 以上、紹介したものだけでも膨大な数の規則があるが、全ての規則を遵守することによって、火災事故や環境汚染、あるいはバッテリーの劣化が防げる確率が上がることは言うまでもない。今回のウェビナーの主な対象は企業や行政機関であり、一般市民が日常生活で実践できる類の情報ではないかもしれないが、身近で便利な電池という存在が、処理方法によっては大変危険であることをあらためて認識するきっかけとなった。

 

 

(A.Crnokrak)

 

 

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 豪州シドニー在住。翻訳・執筆のご依頼、シドニーにて簡単な通訳が必要な際などには、是非お声がけください→MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

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