日本政府の目指すCO2削減政策の中に、2030年代、全新車をハイブリッド車と電気自動車にすることが含まれている。一方、自動車産業界は、発電自体のCO2削減推進が要だとの指摘したことを前回述べた。今回、発電時のCO2削減に向けた取り組みを述べる。

 

 前回、インテルのデジタルインフラストラクチャーダイレクター野辺継男氏は「カーボンニュートラル」政策を進める日本政府と自工会の思いの微妙な違いと、それが日本の産業の根幹にまで述べた。

 

→(関連記事) 日本のエネルギー安全保障の根幹(1)「脱炭素社会に向けて」政府と自工会の同船異夢

 

 今回も野辺氏に話を聞いた。ここで、CO2削減に向けた総合的かつ抜本的な対策立案のため、2021年、再生可能エネルギーの導入の議論と、並行して官民交えた国際競争力のある強靭なEV向けバッテリー産業の構築の必要性を訴えた。

 

 

グラフ【4】日本と世界各国の発電構成と発電時のCO2排出量

 日本は、発電電力のうち約30%が石炭火力で占められる。では、主要各国での発電構成はどうだろうか。世界の自動車産業を牽引し、さらに現在EV化を強力に推進している中国、米国、ドイツの三か国の発電構成は、日本と同等の30%かそれ以上が石炭火力で占められ、比率が高い事がわかる。

 

 多くの議論があるが、石炭火力の比率30%前後の地域で、バッテリーだけで動くEV(BEV)とハイブリッド車(HEV)のCO2排出量の優劣が議論されることが多い。

 

 米国は州ごとで発電構成が異なり、EV化の効果が議論されている。現実的に、石炭火力の比率の高いコロラド州とメリーランド州を除いて、石炭火力の低い州がゼロエミッションビークル(ZEV)州を宣言している。

 

 

地図

 

 

グラフ ここで1970年以降の日本の電力事情をおさらいしてみよう。1960年代、70年代は日本も高度経済成長期を迎え、日本国内では公害問題が噴出し、また同時期70年代に起きたオイルショックに対し、日本は世界に先んじて省エネを積極的に進め、その点から優等生、模範生といえる水準に達した。更に国内の製造業が90年以前から、運輸業が2000年ごろから、そして商業および住宅建設業が2015年ごろから、それぞれCO2排出量は減少に転じた。

 

 しかし、国内の発電において、過去30年間CO2排出量は増加している。特に、2011年の東日本大震災の後、火力発電の比率が拡大した影響もあり、CO2排出が拡大している。

 

 一方、先進国の多くは、2000年ごろから電力需要を抑え、更にCO2排出の少ない発電システムの割合を増やし、全体として排出量を抑えてきた。その結果、発電量1kWhあたりの日本の2019年CO2排出量434gは、米国410g、ドイツ406g、欧州27カ国平均287g(2018 年数値)と比べても多い国になってしまった。これから2030年に向け日本や米国、欧州はゆるやかな経済発達の中で発電電力量を抑える方向にあり、中国を含みこれから更に経済拡大するインド、東南アジア、アフリカ等では電力需要は引き続き拡大する。

 

 既に2018年に世界の発電電力量の約3割を占めた中国は、電力の60%以上を石炭火力発電に頼っている。これに対して、中国では、政府主導で石炭火力発電の拡大を押さえ再生可能エネルギーの割合を急激に増やそうとしている。また日本よりも再生可能エネルギーの比率が高いドイツは、更に石炭火力発電から再生可能エネルギーへのシフトを推進している。

 

 

グラフ

 

 

https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/ChinaReport_JP.pdf

 

 米国のバイデン政権は、就任当日にパリ協定への復帰を決定し、CO2削減のために、EVの促進、電力グリッド(電力網)の整備、蓄電の導入等を含みエネルギー政策の展開を強力に進めている。欧米中ではEVの拡大や再生可能エネルギーの導入、充電インフラの整備等はグリーン・ニューディールとも認識され、パンデミック後の経済拡大をも考慮した次世代への公共投資として捉えている傾向がある。日本でも、カーボンニュートラルへの推進には、EV、インフラ、再生可能エネルギー等導入に対するニューディール的な政策的支援が、産業の国際競争力強化のためにも急務であると野辺氏は言う。

 

 

写真【5】真のカーボンニュートラル達成に向け再生可能エネルギーと蓄電が必須

 国際レベルのカーボンニュートラルへの民間の動きとして、2050年までに事業運営を100%再生可能エネルギーで行うことを目標にするRE100という国際的な団体がある。2021年2月1日の段階でここに50社を超える日本の主要企業が参加している。こうした企業は、2050年迄に事業と製品・サービスをクリーンにすることを約束し、事業運営に100%再生可能エネルギーを利用することが求められる。それが出来ない場合は、日本から海外へ工場を移転する可能性もあり得る。

 

 日本は、大規模な太陽光発電プロジェクトを展開する十分な空きスペースが少ない。また風力エネルギー導入は時間と費用のかかる許認可プロセスがある。更に、大規模電力会社を支持する国の規制の枠組みは、個別企業が発電事業者から直接クリーンエネルギーを購入することを困難にしている。これでは、国内雇用の減少、国内企業の国際競争力低下を招くことにつながる。

 

 また、再生可能エネルギーのもう一つの大きな課題として、天候などに左右され易く、電力供給が安定しない点から、電池による蓄電が電力供給安定に必要不可欠となる。現在市場に浸透する蓄電池としてNAS電池(※ 写真)がある。しかし、現在、海外ではEV自体を移動式の蓄電システムとする方法や、EVの電池としての役目を終えた(80%程度の充電容量が残る)電池を集めて定置型電池システムにする方法などが、積極的に検討されている。これは、今後、国際的にEV市場が急拡大することが前提となっている。そこには、新車のEVが10年以上走行した後に、バッテリー再利用として定置型バッテリーが増える未来を想定している。

 

 CO2排出量の大きい日本国内の発電構図を変えるためには、石炭発電を急速に低減し、並行して再生可能エネルギーの導入を行いつつ、海外と同様EVを普及させることも重要となる。菅首相の掲げた日本国内のカーボンニュートラル目標達成にはこうしたあらゆる問題を同時に解決していく必要がある。では、日本国内に発電時のCO2排出量を減らす仕組みができる前提で、日本のEVと電池の事業はどのようにあるべきなのか。次回は、将来のEVと電池市場の姿について述べたい。

 

 また、5月のバッテリーサミット2021に野辺氏が登壇されます。「日本のエネルギー安全保障の根幹」について、最新の話が出るかもしれません。

 

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※NAS電池 負極にナトリウム(Na)、正極に硫黄(S)、そして電解質にファインセラミックスを用いた二次電池システム。硫黄とナトリウムイオンの化学反応で充放電を繰り返すことができる。

 

 

野辺継男(のべ・つぐお)氏

 1983年NEC入社し、パソコンや関連する事業立ち上げた。2000年末退職後、ゲーム会社などベンチャー企業を立ち上げてきた。2004年に日産自動車入社し、ビークル・インフォメーション・テクノロジー事業に従事した。日産退社後に2012年インテル入社し、車のICT化から自動運転全般のアーキテクチャー構築に従事し、2014年5月名古屋大学客員准教授兼務し、現在に至る