人類は、長期的な生存危機に至る可能性の観点を含めて、CO2削減が大きな課題である。日本政府は、脱炭素社会に向けた政策推進の一つに、2030年までに脱ガソリン自動車の目標を掲げた。しかし、自動車工業会は、その前に発電時のCO2削減の必要性を訴える。

 

 今回より3回シリーズで「日本のエネルギー安全保障の根幹」をお届けする。

 

 一刻も早い戦略的に強靭なバッテリー産業を構築しないと、将来的に「エネルギー安全保障上」の問題になるとインテルの野辺氏は語る。インテルのデジタルインフラストラクチャーダイレクター野辺継男氏は、長年、ICTメーカや自動車メーカの第一線で活躍し、そこで培われてきた技術的な視点と、データをもとにした視点と、長年の国際的な経験をもとに、CO2削減に対して総合的かつ抜本的な対策を立て、至急行動に移すべきだと言う。

 

 

【1】日本の「カーボンニュートラル」政策

 2020年、菅新政権発足して早々、日本政府は、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを表明した。また、同年10月26日、菅内閣総理大臣は、所信表明演説で宣言した。

 

 

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 国際的に世界主要な国々は、自動車産業や製造業だけでなく、輸送業やサービス業など様々な産業を含め2050年までにCO2排出量の実質ゼロを目指そうと足並みを揃えてきた。その後、同年12月3日、NHKが「経済産業省が2030年代半ばに国内の新車からガソリン車をなくし、すべてをハイブリッド車や電気自動車などにする目標を設ける方向で調整していることがわかりました。」と報道すると、12月10日経済産業省において有識者による検討会が開かれ、本格的な検討が開始された。これに対し、日本自動車工業会(自工会)がいち早く違和感を表明した。

 

 

【2】CO2大量放出の歴史

写真 ここで、人類によるCO2大量放出の歴史を少しだけ振り返ってみよう。

 

 人類が爆発的にCO2を放出し始めたのは、19世紀半ばに石炭を利用した蒸気機関による産業革命が起こり、それ以降、製造業と輸送産業の大きな動力源となったことが大きい。その後、20世紀に入ると、まず石油、そして後半天然ガスが加わり、これら化石燃料をエネルギー源とする莫大な電力を人類は利用し、特に先進国での生活に多大なる恩恵をもたらした。21世紀に入る前後からこの恩恵は新興国にも拡大し、その過程でCO2が大気中への排出も急拡大した。

 

写真 ここでの問題は、指数関数的な経済成長のために、数億年掛けて蓄積された石炭、原油、天然ガス等の化石燃料を地球から掘り起こし、僅か100年程度で大量に燃焼し、大気中にCO2を排出したことである。そして、その結果が温暖化であり、我々の生活環境の多くの面に悪影響を及ぼしている事実である。

 

 我々はまさに、エネルギー革命の最中にある。今後、人類は化石燃料の掘り起こしを削減し、実質的に無尽蔵な太陽エネルギーを(化石燃料より)直接的な電力源とし、持続可能な発展を目指す必要がある。化石燃料の中でも、特に石炭火力発電がCO2放出の大きな要因となっている。ちなみに、天然ガスは単位発熱量に対してCO2の排出量が石炭の約半分程度で小さい。内燃機関の自動車が、EVになってもバッテリー製造過程や走行時に使う電力の発電時のCO2排出が大きい場合、ハイブリッド車(HEV)のほうがEVよりもCO2排出量が少ないということは各国でも指摘されている。

 

 

【3】自動車の真のカーボンニュートラルとは

 こうした中、日本政府は2030年代半ばまでに全ての新車を電動化する目標を掲げた。これに対して、自動車産業界は、「ガソリン車の禁止を急ぐことが正しいのか?」と疑問を投げかけている。日本は、英国や米国カリフォルニア州の様に化石燃料を燃やす内燃機関の新車販売を禁止すると断言していない。2021年2月時点、政府の公式な目標値は発表されていないが、35年頃も新車販売の約半数がモータとエンジンの両方を搭載するハイブリッド車(HEV)で残る可能性が高い。

 

 世界の自動車市場の1/3を占める中国は、昨年10月に提出された政府計画によると、NEV (バッテリーだけで動くEV (BEV) 、プラグインハイブリッド、燃料電池車の3種)の比率を2025年に20%、30年に40%、35年に50%とした。残りは内燃機関(ICE)車でよく、そのうちHEVが2025年に50%、30年に75%、35年に100%とした。すなわち、2035年でも中国の新車の半分がHEVで良く、引き続きHEVに十分大きな市場があると言える。

 

 前述の様に、EVの比率が拡大すればCO2排出量が減るとは一概に言えない。運転時に自動車から排出されるCO2を無くすことで、カーボンニュートラルを考えるのではなく、自動車やバッテリーをつくる段階、またモータを駆動するための電気の発電する段階まで遡ってカーボンニュートラルを考えなければならない。つまり、自動車そのものの枠を超え、電力発電やそれを送電する電力網の強化も含めて議論をする必要がある。

 

写真 自動車の組み立ては、そもそも莫大なエネルギーが必要である。自動車の大量生産が始まった1900年代初頭から、そのエネルギー源は概ね電力だ。それは、EVでも内燃機関の車でも同じである。また、自動車の部品となる鉄鋼やアルミニウム合金などのボディー材料、銅やアルミの合金配線などワイヤーハーネス、内外装に使われるプラスチック、ガラス、ゴムなどの樹脂、電気的にクルマを制御する多くの電子部品や半導体を製造するときも、多くの電気を使う。そしてEVに欠かせない電池を製造するとき、自動車本体の製造とほぼ同程度の電力が必要であるとの指摘もある。

 

 さらに部品をつくる素材も大量の電気が必要である。部品をつくるための金属素材、例えば鉄鋼やアルミニウム、銅、またはコバルトやリチウム化合物などの採掘、製錬過程でも大量の電気が使われている。これらは、多くが日本でなく海外で行われるが、グローバル企業は国際視点からCO2排出のみならず非人道的や労働慣行の排除や、処理後の廃棄物質の安全な処理、またそれらのマネジメントに対するガバナンス等も含めたEGS的な事業責任を負う状況が拡大している。

 

 では、発電時のCO2排出量を減らす動きはどうなっているのか。次回は、発電時のCO2削減について述べたい。

 

 

野辺継男(のべ・つぐお)氏

 1983年NEC入社し、パソコンや関連する事業立ち上げた。2000年末退職後、ゲーム会社などベンチャー企業を立ち上げてきた。2004年に日産自動車入社し、ビークル・インフォメーション・テクノロジー事業に従事した。日産退社後に2012年インテル入社し、車のICT化から自動運転全般のアーキテクチャー構築に従事し、2014年5月名古屋大学客員准教授兼務し、現在に至る

 

 

(IRuniverse)