回鍋肉・白香鶏丁・麻婆豆腐・餃子―スタミナ中国料理の定番。これらを引き立てる食材がニンニクだ。昔の日本では宗教上、ニンニクが忌み嫌われたが、中国では孔子の儒教でこれを排除しなかったため、不老不死の霊薬として愛用されてきたという。その後、料理に利用されるなど庶民の食卓に欠かせないものとなった。日本国内では最近、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でニンニク価格が高止まりしている。(写真はYahoo画像から転載)

 

 2010年5月半ば、ニンニクの主産地である四川省や雲南省で干ばつが発生し、生産量が大幅に減少するとの観測が広がるなか、投機筋が買い占めに動いた。当時、広東省広州市の卸売店ではニンニク価格が500グラム当たり4.5元(約61円)で、前年同時期の10倍にまで跳ね上がった。天界の孔子もさぞかし驚いただろう。

 

 小湊潔著『にんにくの神秘』によると、中国にニンニクが伝わったのは前漢時代。国内を統一した武帝は、部下の張塞を西域に派遣する。紀元前139年から126年にかけてのことで、現在のアフガニスタンである胡の国からニンニクを持ち帰ったのが初めてのことだそうだ。

 

 その後、現在の浙江省の歴山で中国産ニンニクが発見され、「大蒜」という字が当てられた。ニンニクには強壮作用などの効能があり、長寿薬や媚薬として利用されたほか、料理にも不可欠のものとして庶民の生活に根付いていった。李時珍の『本草綱目』にもニンニクの栽培法や利用法が説かれている。

 

 中国から朝鮮半島を経て、日本にニンニクが伝来したのは約2000年前の崇神天皇の代と推定されている。前出の小湊氏は「聖徳太子の時代に仏教を国教として奨励したことなどが、ニンニクの一般的普及を妨げてしまったようである」との見方を示す。ニンニクが仏教の禁制とされていたため、汚らわしいものとして忌み嫌われたというわけだ。ただ、効能について広く知られていたようなので、これを用いる人たちも少なくなかったようだ。『日本書紀』や『源氏物語』などでもニンニクに関する記述を散見することができる。

 

 ところで、新型コロナウイルス感染拡大の余波で日本国内では最近、内食の需要が高まる一方で、品薄感もあり生鮮食品の価格が高騰。ジャガイモや鶏肉のほか、国産ニンニクも値段が高止まりしている。中国でのニンニク価格高騰は、不動産や株式市場から投機資金がシフトし、ニンニクがカネ余りの新たな受け皿になったようだが、日本国内では健康志向で需要が急増する一方、種用ニンニクの供給が限定されているとの理由で価格高騰につながっているという。

 

在原次郎

 コモディティ・ジャーナリスト。エネルギー資源や鉱物資源、食糧資源といった切り口から国際政治や世界経済の動向にアプローチするほか、コモディティのマーケットにかかわる歴史、人物などにスポットを当てたリサーチを行なっている。『週刊エコノミスト』などに寄稿。