ドイツに拠点を置くFraunhofer は、欧州で最も有名な研究機関の一つで、その傘下には、ビジネスおよび産業の各種専門分野に枝分かれした研究所75件を持つ。そのうちの一つであるFraunhofer IPAは、大規模な研究所の一つで、創立は1959年、1000人近くの研究者や技術者を抱えている。

 

 Fraunhofer IPAは、設立当初は製造業におけるオートメーション技術に焦点を当てていたが、今日では、バイオ原料やコーティングのアプリケーション技術、医療器具などフォーカス分野は多岐に渡っている。今回、この研究所で電池生産における最適化技術の開発を行う研究者、Mr. Max Weeber 氏に話を聞いた。

 

 

Q: 日本に住まれた経験があると聞きましたが、いかがでしたか?

A: 2011年でしたが、半年ほど日本に仕事で滞在しました。横浜にあるBosch 社に勤務しており、シミュレーションモデリングをやっていました。オフィスが5階だったのですが、毎朝会社に来ると、室内から富士山が見えるのです。素晴らしい経験でした。同僚にも恵まれ、仕事後の飲み会や食事も満喫しました。

 

 

Q: それを聞いて非常に嬉しいです。では、Fraunhofer IPAで従事されている研究内容を教えてください。

A: 私は、2つの研究テーマに従事しています。一つは、どのように電池セルを生産するか、その過程をどのように改善するか、次に、電池が使用済みとなった時に必要なシステムについてです。具体的には、施設の建設、機械の選択、設置、またこれらの機械を異なる処理過程で、どのように接続し効率化を図るかということです。個々の機械の設計ではなく、それぞれの過程で必要な機械をどのように繋ぎ、オートメーション化するか、作業データの収集方法、それらのデータを用いてどのように処理能力を向上させていくかという内容です。要するに、施設の生産性を上げるための技術です。使用済み電池についても同様で、施設において、どのようにリサイクルの生産性を上げるかということに焦点を置いています。

 

 

Q: 欧州におけるリチウムイオン電池のリサイクル現状について教えてください。LIB電池のリサイクル率や効率の現状については、正確なデータを探すのが難しいのですか。

A: 確かにその通りです。現状では、LIB電池のリサイクルに関する正確なデータを探すのは難しい。またリサイクル効率については、どの部分を見るのかによっても異なってきます。バッテリーパックか、モジュールか、セルなのか。

 

 バッテリーパックを例にとると、リサイクル効率の全体像は平均50%です。EU規制はこれを65%に引き上げる予定です。この数字は、リチウム、コバルトやニッケルなど有価金属の回収率をそれぞれ上げることを狙いとしています。例えば、リチウムの回収率は現在およそ35%前後ですが、規制では最終的に70%まで引き上げようとしている。現在の乾式処理では、この数字の達成は不可能です。そのため、より高い回収が可能となる湿式処理への移行が必然的となります。

 

 今のLIBリサイクルに影響を与えている状況は大きく分けて二つあります。一つは、LIB電池の量がまだ市場に少ないことです。現在の主なLIBは、消費財に搭載されているものが主流でEV用ではほとんどありません。2つ目は、LIB電池は、化学物質、フォーマットなど種類が大きく異なっていることで、リサイクル処理をより複雑にしています。従って、現段階では、金属を分離し、まだ様々な物質が混合しているブラックマスを生産するという状態です。

 

 例えば、まだ研究段階のダイレクトリサイクルを例にとると、研究を先に進める条件として、大量の電池と集中処理施設が必要です。10年後に、電池の量が増加するとしても、現在の電池の技術が10年後には進化している可能性は非常に高い。従って、今10年後を見て技術を開発したとしても、10年後の電池技術にはそのリサイクル技術では必要なくなっている可能性もある。電池技術の変化一つをとっても、リサイクルへの投資は、非常に微妙な側面があるのが現実です。

 

 一方で、戦略的な見地からすると、リサイクルは必須です。バージン原料のない欧州において、電気化への移行に必要不可欠な原材料をEU域内確保に確保するためには、リサイクルに頼る必要があります。そこで規制の強化による推進が行われるわけです。

 

 

Q: 2020年にはLFP 電池を搭載したEVが中国市場で再び増加し、欧州市場でもLFPがこの先増加するという予測がありますが、リサイクルを推進するEU規制の下、リサイクル価値のないLFPが広まる可能性は?

A: これは難しい問題ですね。LFPにおける低コストは生産者にとっては良いが、リサイクラーにとっては良くない。リサイクラーは、有価原料が多い電池を好みます。一仮説として、もしLFPだけに特化したリサイクル処理を大量に行えば、多くの活物質が回収できると思います。しかし、他の物質と混合した場合は、価値はなくなります。

 

 

Q: 新しい電池規則によるLIB電池の技術およびリサイクルの研究開発への影響については?

A: リサイクル需要へのプレッシャーが当然かかってきます。OEMにも、使用済み電池が適切にサステナブルな方法で処理されるべきだという社会的プレッシャーがかかってくるため、それに対処する必要が出てきます。

 

 例えば、現在提案されているバッテリーパスポートの導入は、電池のデータに関するデジタルインフラを必要とするものです。そのため、デジタル環境における研究開発への必要性が大きく高まると思います。このパスポートにより、リサイクラーが電池をリサイクルする際、化学物質についての詳細な情報が提供されるため、リサイクルの効率を引き上げることに貢献します。もう一つは、エコデザイン、「修理、再利用、リサイクル」を簡易化する設計です。この分野でのさらなる技術開発が必要となるでしょう。最後に、規格化とその市場統合への動きが活発になると思います。現在の電池のシステムやデザイン、使用される化学物質は複雑で多様です。従って、OEMは規格化を押し進めると思います。

 

 

(Y.SCHANZ)

 

 

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SCHANZ, Yukari

 オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。

 趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。

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