2021.2.24.

 トランプ政権下の4年間というもの、環境関連の国際的なニュースでアメリカの名前を耳にすることはほとんどありませんでした。強いて言えば、規制緩和とグリッド整備が進んだ結果、アメリカ中西部の穀倉地帯で風力発電などの再生可能エネルギー導入が促進され、民主党知事が多い東部諸州および西海岸に比べてトランプ支持者が多い中西部の州で再エネ導入の実績が上がったという皮肉な話題くらいだったように思います。(写真はYahoo画像から引用)

 

 東部諸州や西海岸では、地権者の利害が絡んで、環境補助金などを巡る調整が複雑になる中、広大な土地をワンオーナーが所有している中西部の穀倉地帯では意思決定がしやすいこと、民間企業などに再生可能エネルギーの需要が生まれ、ビジネスとして成り立ちやすかったことなどがその背景にあると言われています。

 

 一方、バイデン政権は発足直後にパリ協定への復帰を宣言しましたが、外電は先週19日にアメリカが正式に協定へ復帰したことを伝えました。J.W.ブッシュ元大統領と大統領選を争ったジョン・F・ケリーが気候変動担当の大統領特使となったほか、温暖化対策の担当にはジーナ・マッカーシー大統領補佐官、米環境保護庁(EPA)長官にはマイケル・リーガン氏など、気候変動に積極的とされる面々が任命されることになりました。

 

 バイデン大統領はさっそく、国有地での石化燃料開発を禁止したり、カナダとの天然ガスパイプライン(キーストーンXL)の建設工事を許可しないなど、いわばトランプ政権の逆張りのような大統領令も連発しています。

 

 バイデン大統領は環境対策についても国際協調を強く打ち出しており、この4月22日にはオンラインで気候変動サミットを開催するとのこと。欧州連合(EU)や日本も参加することになると思われますが、おそらくそこで打ち出されるであろう政策の下敷きは、すでにトランプ政権下の昨年6月に下院の選抜委員会が政策ペーパーとして世の中に提示されています。

 

 それを読むと、環境正義、気候正義という言葉が目につきます。また、「公正なるアメリカ」という、あまり使われない表現も含まれており、これが気候変動対策についてのアメリカのスタンスを表している、ような印象を受けます。気候「正義」についてはさすがの欧州もそこまでは言わなかったよね、と思うのですが、今や公衆の面前での喫煙がそうであるように、気候変動にマイナスの影響を与えるものを、いわば社会悪とみなす考え方を象徴的に表しているように思えます。

 

 この「正義」が世界的に是認されるようになると、世の中の産業構造にも少なくない影響が及ぶものと思われます。さしあたり気候変動対策が最優先課題とされることに大きな異論は出ないものと思われますが、石油化学産業に対する姿勢は予断を許さないと思われます。輸送部門の二酸化炭素(CO2)排出も大きな課題です。アメリカでは、国家の基盤を形成しているとさえいえる自動車について、鉱物資源の視点からいってもすべてを速やかに電動化するのはかなり難しいと言わざるを得ない状況ですし。

 

 また原子力をどう扱うのか、さらに欧州は移行的技術として渋々その存在を認めるであろう高炉製鉄やセメント産業などについて、果してアメリカはどのようなスタンスで臨むつもりなのか。

 

 これから4月下旬にかけて、しばらく世界の潮流が注目される日々が続きます。私もセミナーなどの機会を通じて積極的に情報をお伝えして行こうと思っています。

 

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西田 純(環境戦略コンサルタント)

国連工業開発機関(UNIDO)に16年勤務の後、2008年にコンサルタントとして独立。サーキュラーエコノミーをテーマに企業の事例を研究している。サーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー循環研究会会員、サーキュラーエコノミージャパン会員