カダフィ政権が崩壊してから今年で10年、リビアは未だ分裂状態にある。内戦突入後、暫く四五分裂状態にあったが、2014年からは西部の暫定政府と、東部の代表議会並びにそれを支えるリビア国民軍の勢力にほぼ二分された。暫定政府は支持母体のイスラム勢力を制御できず機能不全状態でテロ組織の跋扈を座視するしかなく、テロとの戦いを進めたリビア国民軍が国土の大半を勢力下に置いていた。リビア国民軍はカダフィ政権の残党でもあり、カダフィ時代の部族統治のノウハウに長けていたことも国土掌握につながったと見られる。(写真はYahoo画像から引用)

 

 2019年4月、リビア国民軍を率いるハフタル将軍は、テロ組織の一掃とリビア統一を目指しトリポリを目指し攻勢を開始した。一時トリポリを包囲するまで。同年末、地中海の覇権を狙うトルコが、突如暫定政府側について軍事介入を宣言した。暫定政府は国際社会に。エルドアンは、介入宣言後ハフタルを牽制するため、リビアはオスマン帝国の重要な領土であったと発言し、領土的野心を隠さなかった。翌年先遣隊としてシリア人傭兵を送り込み、暫定政府側に大量の兵器を供給した。これによりリビア国民軍はトリポリから撤退し、一時石油輸出港シルトの放棄も懸念されたが同地で踏みとどまり膠着状態となった。リビア国民軍、暫定政府の間でシルトの中立化が合意され、和平協議の機運が醸成された。

 

 双方攻め手に欠いていたところで和平協議が始まったが、シリア和平協議同様、集まっては何も得るところなく散会を繰り返すだけであった。昨年12月からモロッコのタンジェで新たな和平協議が始まった。また特に成果を出すこともなく終了した。そして今年に入り、ジュネーブでリビア内戦の政治的解決を目指す協議が始まった。よい意味で期待を裏切り、暫定政府側、リビア国民軍を擁する東部の代表議会の代表者により新暫定政府樹立が投票にかけられることになった。リビアに介入するトルコのエルドアンは、新暫定政府の代表に祝辞を送った。トルコ外務省は声明で、トルコはリビアの「兄弟国」として安全保障含むリビア国民の支援を続けると宣言した。とりあえずトルコの権益には手を触れられずに済んだということだろう。トルコの介入に反対するアメリカ、フランス、暫定政府並びにトルコ側のイタリアも新暫定政府樹立を歓迎した。敵対する両陣営が歓迎する正に玉虫色の妥協案となった。

 

 リビア内戦は新暫定政府樹立で終結に向かうのだろうか。和平協議に関する報道を概観すると、新暫定政府に関する合意に過程でリビアを取り巻く諸問題に解決への道が開かれたとは言い難い。早晩、現在のリビア内戦につながる分裂劇。現在のリビア内戦は「第二戦争」と呼ばれる。カダフィ政権崩壊後の状況は国土の分裂、混沌と呼ぶにふさわしかった。その後今回の合意のように選挙が実施されたが、主に世俗主義を支持する民意を受け入れられないイスラム主義者中心に選挙結果のボイコットが始まり、イスラム主義者に軍事力を依存する暫定政府と民意を代表する議会とそれを軍事的に支えるリビア国民軍が対峙する東西内戦の構図が生まれた。目下リビアにおける最大の紛争の種となっているトルコの介入については手つかずだ。トルコは暫定政府へリビアの資源権益を自国企業に開放するよう迫ってきたが、それはリビアを親トルコ派と反トルコ派に分断し紛争を助長する。

 

 トルコは昨年の介入表明で急にリビア情勢に躍り出た感があるが、リビア内戦当初から石油利権を狙い、とりわけイスラム国の勃興に関わっていたと疑われる。2018年既にイスラム国戦闘員の軍服が、リビアから遥か遠くのトルコで縫製されたものとの指摘があった。トルコのアフリカにおけるテロ支援はリビアのみにとどまらない。ナイジェリア当局はトルコがボコハラムの武装に関与について捜査を開始したと発表している。ボコハラムもイスラム国に忠誠を誓っていた。イスラム国あるところにトルコの影がつきまとう。シリア、イラクでの構図と同じくイスラム国を傀儡勢力として利用していたが、リビア国民軍という反トルコ勢力に駆逐されたのでパトロン本体が乗り出す必要が出てきた。

 

 また、軍事介入以前よりトルコはリビア領内に無人機の基地を展開し、リビア国民軍がそれら無人機を撃墜、リビア領内で工作活動に従事するトルコ人を拘束し緊張が高まった。シリア同様に問題なのは、リビア問題に関与する大国がトルコの介入に対し無力なことである。リビア国民軍はトリポリへの攻勢を介入した当初、国連へトルコによるリビア領内への武器流入に関して調査を要請した。地域大国トルコを止めるため常任理事国が一致することはなかった。トルコ国内にも軍事介入がもたらす帰結を憂慮する声がないわけではない。トルコ最大野党共和人民党代表クルチダロールは、リビア介入に反対を表明したが、国家の実権を手中に収めるエルドアンを止める力はない。

 

 新暫定政府樹立が内戦の小休止となれば、10年に及ぶ祖国分裂に苦しむリビア国民にとってせめてもの救いだ。


 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受け、恐らく日本で唯一クルドを使える日本人になる。今年7月に日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。