フランスの自動車メーカー大手、ルノーグループ(Renault Group)は、「循環型経済」のコンセプトをいち早く自動車事業に取り入れたパイオニア的存在で知られる。1995年には、自動車製造へ再生プラスチックの使用を開始、2000年からは、本格的な「循環型経済」を事業活動へ反映、Ellen McArthur 財団*との協力による研究開発にも従事し、廃棄物を原料に戻す取り組みへ注力している。また、他の自動車メーカーに先駆け、解体業者やリサイクル業者を傘下に置くというビジネスモデルでクローズドループを構築したことでも知られ、自動車セクターにおける「サステナビリティ」では常に一歩先を進んでいる会社だ。

 

 *イギリスに拠点を置くサーキュラーエコノミー(循環型経済)を推進する組織で、あらゆる業界を繋ぐ国際ネットワークを構築している。

 → https://www.ellenmacarthurfoundation.org

 

 今回IRuniverseでは、ルノー社の循環型経済推進部門を率いるJean-Denis CURT氏へ取材、循環型経済の観点から、同社の使用済みのEV用電池戦略におけるフォーカスや、新しいCEOの下、常に一歩先を見てきた自動車メーカーの新ビジネスコンセプトについて伺った。

 

 

Q: 御社の使用済みEV用電池やその他の材料におけるリサイクルおよび再利用最新戦略について教えてください。

A: リサイクルについては、現在はまだ原料の量自体が非常に限られているが、将来的に大幅に上昇していくことは明らかだ。そのため、中期的な目標として、ニッケル、コバルト、リチウムなどの原料を回収し、それを当社の車載用電池の製造に使用することを計画している。ただ、残念ながら先の詳細については現段階では公表できない。

 電池の再利用については、既にいくつかのアプリケーションや提携を行なっている。電力貯蔵や、海洋セクター、特殊車両など大小規模のシステムまで幅広く行なっている。ただ、目下のところは、リサイクルと同様で、セカンドライフ利用ができる電池の数はまだ限られている。しかし、数の上昇は時間の問題なので、今後の大幅成長に備えて、当社はアプリケーションとパートナシップの開発に注力している。セカンドライフ利用のステップとしては、電池の健康状態を検査し、それによってどの種類のアプリケーションが適当かを判断し、当社の提携パートナーへ販売している。

 今後はこれより一歩先に進むことを考えている。現在進行中の「Re -Factory」というプロジェクトがそれで、当社のEVモデルZOEを製造している工場(パリ近郊)を他に移し、この施設を「循環型経済プラットフォーム」へ改造するというものだ。ここで数種の事業活動を行っていくが、その一つに「Re -Nergy」と名付けたプロジェクトがある。その中で、EV用電池のセカンドライフ管理と水素技術開発事業によるグリーン電力の生産、貯蔵、管理を行う計画だ。セカンドライフ使用への(電池の)再組み立ても行っていく。

 当社は現在、電力貯蔵システムの設計と組み立てを行っている提携先へ、セカンドライフ用EV電池を販売しているが、先ほど述べた「Flins Re-Factory」プロジェクトの中で、この中の何件かと先の事業協力(産業規模も含めて)を行うことを検討している。

 

 

Q: では、このビジネスモデルでも再びパイオニアとなるということですね。

A: ルノーと当社のアライアンスパートナーである日産は、EV用電池のセカンドライフ利用プロジェクトや事業においては、主要自動車メーカーの中では既にパイオニアだと思う。競合会社のEV用電池のセカンドライフ利用計画を全て把握している訳ではないが、この10年欧州のEV市場のリーダーとして留まっているルノーは、バッテリーリースにより、欧州に25万個に及ぶ電池を所有している(リースについては、現在は商業戦略により停止している)。従って、当社は、「Re-Factory」プロジェクトにより、産業規模での電池のセカンドライフ利用事業を行う初の主要自動車メーカーになると思っている。

 

 

Q: 御社のクローズドループシステムについての新規取り組みや拡張などは?

A: クローズドループについては、現在他の原料も検討している。例えば、フラットアルミやポリマーなどだ。ただ、まだ量が非常に少ない。例えば、フラットアルミについては、20年にはまだ車にはそんなに使用されていなかった。今の使用済み自動車は、20年前に製造されたものが多数を占めるからだ。だが今後増えてくるため、将来的なフォーカスとして考えている。

 

 

Q: 新規でループをクローズするにあたっては、どのような形態を考えていますか?買収により自社で行う、あるいはパートナーシップで行うのでしょうか?

A: パートナーシップで行っていく。当社としては、リサイクルを自社で行いたいという希望はあるが、実現したとしてもリサイクル処理の一部になるだろう。その他はパートナーシップが中心となる。また、リサイクル材料の回収量が増えれば、再生材を使う必要があるが、その場合、当社のサプライヤーとの協力も非常に重要になってくる。当社が部品を購入しているサプライヤーが再生材を使う必要があるからだ。また当社は、古いシートベルトなどを再生繊維の製造に用いている。再生繊維に関しては、これが当社の唯一のクローズドループになり、その他に関しては、射出形成プラスチック、特に自動車産業では最も広く使われているポリマー、ポリプロピレンの再生に注力している。

 

 

Q: 欧州ELV指令への対応として、リサイクル率を上げる車両デザインへの取り組みについては?

A:現在のリサイクル率達成状況については、極めて良好だ。従って、課題はこのまま高いリサイクル率を維持し続けるということだ。一方で、車両の製造にはどんどん新素材が使われ始めている。例えば軽量素材だ。その中にはリサイクルが難しいものもある。そのため、我々の課題となるのは、軽量素材の開発と同時に高リサイクル率の維持だが、加えて再生材の使用も念頭におかなければならない。軽量、リサイクル率、再生材の3項目だ。時として選択を迫られることもあるが、サプライヤーとの協力の下、全てに対応できる材料の開発に注力している。

 

 

Q: 欧州の規制に際し、優先順位はあるのでしょうか?例えば、軽量、リサイクル率かの選択を迫られた場合は?

A: 化石燃料自動車に関しては、軽量さは、車の総合的な環境フットプリントにおいて最も大きな影響を与える要因だ。一方で、EVについては、軽量さは重要ではあるが、環境への利益性における要因では、軽量さ、リサイクル率ともにもっと釣り合いがとれている。

 

 

Q: 昨年法案が発表されている電池規則の内容に関して、御社のセクターへのインパクトは?

A: かなり意欲的な内容だ。特にリサイクル効率ターゲットについては、非常に高い目標値だと受け止めている。電池の物質によっては達成が難しいものもあると思う。特に有価物質がない電池については、2025年までに(リチウムイオン電池の)リサイクル効率65%、2030年までに70%に到達するのは難しい。原料回収率についても、コバルト、ニッケルの2025年までに90%、2030年までに95%という特定数値については、おそらく無理ではないかと思う。90%はまだ可能性があるかもしれないが、95%となると不可能だ。2030年からの再生材含有における義務事項(最低含有量)も非常に厳しい内容だ。

 セカンドライフについては、ポジティブな内容もある。現行の電池指令からの改善点があることだ。今回の法案では、セカンドライフ利用がより容易に行われるように配慮されている。ただし、まだいくつかの問題が残っており、特に輸送における問題については解決につながるかどうかわからない。これは、セカンドライフ用の電池の定義の問題で、もし廃棄物として定義される場合は、廃棄物輸送の義務事項に従う必要がある。欧州域内でも輸送先の国への通知手続きが必要となり、この手続きは複雑極まるだけでなく時間がかかる。半年以上かかることも珍しくない。この問題をなんとか解決しようという試みはなされているが、おそらく不十分だと思う。総合的には、我々の業界にとっては大きなチャレンジとなり、サプライチェーン全ての業者にとっても大きな作業となることは必須だ。業界も多大な努力が必要となるため、新法案の目的とするサステナビリティの促進に大いに貢献することを願う。

 

 

Q: 新型コロナの御社のセクターへの影響に関してはどうでしょうか?

A: 自動車セクターの販売は大きく下降しており、いつ回復するのか先が見えない。我々のような自動車メーカーは規模が大きいため、多数の雇用者や施設を抱える。新型コロナによる急激な変化はあまりにも突然に、グローバル規模で起こった。通常なら一国の一市場が落ち込んでも、別の国の市場が上昇するといった状況だが、今回の場合は、それが世界で同時に起こった。

 現状では先の予想は難しい。加えてコロナ感染の影響で、自宅勤務という人々の生活習慣に大きな変化が起こった。人々の「移動」における変化で、これが自動車セクターへも影響しており、この変化がどのくらい継続するのかも予想が難しい。

 ただ、一つ我々が気づいたことは、コロナ危機が一般の人々の環境問題に関する認識を大きく高めたということだ。日本についてはわからないが、ここ欧州ではその傾向が強く見られる。コロナ危機と地球温暖化や公害などの環境問題についての直接的な関係はないと思うが、自宅勤務などで、人々の考える時間が増えたからかもしれない。

 私は、自動車メーカーの環境関連セクターに20年以上いるが、以前は環境問題といえば副次的な問題であり、事業概念の中核ではなかった。もちろん、規制の強化も環境問題の認識を向上させることに貢献していることは間違いないが、このところ、大きな意識の高まりを自分が置かれている環境でも感じており、コロナ危機による貢献が否めない。

 当社の新しいCEO、ルカ・デメオは、今後の事業戦略のフォーカスとして、サステナビリティと循環型経済を掲げている。この2つを事業の中核とし、ルノーのビジネスモデルとする方針だ。ルノーという自動車メーカーの事業形態を、従来の車の製造販売というビジネスモデルから、「モビリティサービスの提供」というモデルへの変換を始めている。これには、車の製造に加え、一般への輸送やモビリティサービスの提供、商品、また電力貯蔵や循環型経済など新サービスセクターの開発なども含まれている。事業活動範囲を広げるとともに、資源の使用を削減し、カーボン中立の達成を行うことにより、よりサステナブルな事業への移行を目指していくものだ。

 加えて、この12か月間、一般レベルでもコロナの影響で、人々の変化を感じている。循環型経済やリサイクル材料の推進に興味を持つ人が増えている。個人的には、この傾向がこのまま加速し、欧州だけでなく世界に広がっていくことを願っている。

 

 

Q: では、ルノーは新CEOによる新コンセプトの下、再び新ビジネスモデルのパイオニアとなるのでは?

A: 当社のゴールが達成できることを願っている。また我々のコンセプトが他の自動車メーカーを鼓舞していければとも思っている。

 

 

(Y.SCHANZ)

 

 

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SCHANZ, Yukari

 オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。

 趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。

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