アルミ相場も同様の文脈で考えるとよい。非鉄金属には全般的に「脱炭素・クリーンエネルギー・再生可能エネルギー」といった世界的なテーマという強いフォローウィンドが吹いているが、アルミについても車体の軽量化や電線ケーブルなどにおいてその文脈から注目されやすい素地がある。また、自動車に搭載されるワイヤーハーネスメーカーによると、動力を伝える太い口径の電線は銅より軽いアルミへの置き換えが進んでいるという。すでにこれが導入されているものの、世界的には25年ごろからさらに拡大が望めるとみられている。これらの点からも、アルミに関しても今後は銅などと同じ材料でことあるごとに注目を集めやすい。節目の2000ドルを固めることができれば、さらに上値を試すことになろう。

 

 金価格については、高値からの調整期間が続いている。昨年はコロナ危機を受けた各国の資金供給による金融緩和と、今後の世界経済の先行きへの疑念から、安全資産として世界的な注目度が高まってきた金に資金が流入し、8月7日には2072.50ドルの史上最高値を付けた。しかし、その後は徐々に水準を切り下げており、投資マネーの流出も目立っている。特に、新型コロナウイルスに対するワクチン開発が進み、安心感から株価が急伸し始めた11月以降、金市場からの投資マネーの流出は顕著だった。投資マネーが金から株式に移行し、金価格は下落し、株価が急騰する展開になっている。この動きは現在も変わっておらず、直近でも金上場投資信託(etf)への資金流入は確認されていない。とはいえ、年間ベースでは、2020年は過去最大級の投資資金が金に流入している。この点を考慮すれば、投資家の金に対する態度は以前から大きく変わったことだけは確かであろう。

 

 

*金上場投資信託(etf)への資金流入の推移(年間ベース)

グラフ

(出所:ワールド・ゴールド・カウンシル)

 

 

*金上場投資信託(etf)への資金流入の推移(四半期ベース)

グラフ

(出所:ワールド・ゴールド・カウンシル)

 

 

*金上場投資信託(ETF)の投資資金フローの推移

グラフ

(出所:リフィニティブよりエモリファンドマネジメント作成)

 

 

 政府や中央銀行など公的機関の動向でも同じで傾向がみられる。公的機関は2010年以降、買い越し傾向を継続してきたが、昨年は第3四半期に一時的に売り越しとなっている。資金繰りが厳しくなった一部の新興国が金を売却したとのうわさがあるが、価格水準が高くなったことも、新興国による金買いを手控えさせているといえそうである。公的機関による金取引は、年間ベースでは買い越しだったが、その幅は大きく低下している点は、今後の金相場を支える材料としては期待しづらい。

 

 

*金ETF需要と公的機関の金購入の推移(年間ベース)

グラフ

(出所:ワールド・ゴールド・カウンシルよりエモリファンドマネジメント作成)

 

 

*金ETF需要と公的機関の金購入の推移(四半期)

グラフ

(出所:ワールド・ゴールド・カウンシルよりエモリファンドマネジメント作成)

 

 

 こうなると、20年に低迷した実需の回復に期待するしかないだろう。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、20年前半は軟調だった。しかし、その後は徐々に回復しているのがわかる。年間ベースでは大きく落ち込んだが、年後半に徐々に持ち直しており、その動きが主要金消費国である中国とインドでみられていることは、良いサインであるといえる。この傾向が続けば、金相場は大きく崩れることはないだろう。これらの国は、基本的に「バーゲン・ハンター」ではあるが、価格が下がらないとみれば思い切って買いを入れてくる傾向がある。直近の1800ドル台前半を安いと判断しているとすれば、この水準前後で買っている可能性もありそうである。今後のデータに注目しておきたい。また、インドのシタラマン財務相は、金と銀の輸入関税を12.5%から7.5%に引き下げる方針を示している。政府は19年7月に関税を12.5%に引き上げていた。このような材料も、主要金消費国であるインドの買いを促す可能性があり、下値を支える要因になるだろう。

 

 

*金需要と金価格の推移(年間ベース)

グラフ

(出所:ワールド・ゴールド・カウンシルよりエモリファンドマネジメント作成)

 

 

*金需要と金価格の推移(四半期ベース)

グラフ

(出所:ワールド・ゴールド・カウンシルよりエモリファンドマネジメント作成)

 

 

*インドと中国の金需要の推移(四半期ベース)

グラフ

(出所:ワールド・ゴールド・カウンシルよりエモリファンドマネジメント作成)

 

 

 目先の金価格の動向だが、2月5日には1775ドルのサポートで下げ止まった格好である。ここには筆者が注視している288日移動平均線が位置している。この移動平均線は非常に機能しており、例えば昨年3月のコロナショックで金が売られたときも、当時の水準で支えられたポイントである。したがって、このトレンドを維持できるかどかは、今後の金相場を占ううえで、きわめて重要であると判断している。ひとまず目先はこの水準を維持している。したがって、まずはこのまま反発に転じることができるかを確認することになろう。逆にこれを割り込めば、当面は弱い相場にならざるを得ない。それだけいまは金市場にとってきわめて重要な局面にあると考えられる。今後の動きを注視したい。

 

 今後、金に買いが入るかは投資家行動次第であり、少し長い目で見ていく必要がある。最近の金相場の下落は、米国債利回りの上昇が一因である。利子を生まない金を保有する機会費用が増えるため、金利上昇には弱い。投資家の注目が米経済見通しに移り、高リスク資産が視野に入る中、金は短期的には下落する可能性があるとの見方もある。一方、米下院は5日、財政措置を可決した。これによって民主党は、バイデン政権が打ち出した1兆9000億ドル規模の新型コロナウイルス経済対策案を、共和党の支持が得られなくても議会を通過させることが可能になるとみられている。金は景気刺激策が引き起こす可能性が高いインフレや通貨下落を、ヘッジする手段とみなされている。今後はこのテーマに目が向くかが最大のポイントになる。市場がこの点に目を向けるようであれば、下値も固まってくるだろう。

 

 今回の下げで下げ止まったとすれば、今後は反発が想定される。長期トレンドが維持されたとの判断が広がれば、押し目買いの興味も出てくるだろう。直近では個人投資家による銀相場の変動に金相場も振り回される場面もあったが、その銀相場もそろそろ落ち着きを取り戻すだろう。そうなれば、金相場も本来の値動きになるものと思われる。もっとも、米国債のイールドカーブのスティーブ化は、金を保有するコストの上昇につながる可能性がある。この点を嫌気する投資家もいるだろう。また、米国や世界の景気が回復基調にあるとの一般的な考えに反応して金相場がさらに低下し、調整局面に入る可能性も否定できない。とはいえ、やはり長期トレンドの重要なサポートである1775ドルをひとまず維持して反発していることを考えれば、長期トレンドは維持されたと判断され、先を読む投資家は買いを入れてくるものと考えられる。また、今年4月以降はインフレ率の上昇が想定される。そうなれば、投資家の間でもインフレ率の上昇が意識され、再び金への関心が高まるだろう。その結果、年内にも昨年の史上最高値を更新し、高値を目指すことになろう。

 

 20年7月には「金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり」(プレジデント社)を上梓した。金投資の重要性、基軸通貨ドルの行方、米中新冷戦の結末や覇権国家の移行などについて解説している。ぜひご一読いただければと思う。

 

 

*「金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり」

図

 

 

(tetsu emori)
(編集iruniverse)