米大統領選からの混乱が落ち着き、米国ではバイデン民主党政権がスタートを切ったばかりだが、早くも2024年の大統領選に向けた動きが始まっているようだ。バイデン大統領が高齢であることから「2期目はない」との見方が一般的で、民主、共和両党内の出足はいつになく早い。特に政権の座を追われた共和党は「超保守派」が勢いづき「主流派」との対立が深まるなかで、政治的野心が党内に満ち溢れている。注目の面々を数回にわたって紹介する。初回はトランプ前大統領とその家族だ。

 

◆ドナルド・トランプ前大統領

 

 米政治専門ニュースメディアのポリティコと、調査会社のモーニング・コンサルトの世論調査によると、共和党有権者の56%が、2024年の大統領選にトランプ前大統領は立候補すべきだと考えている。イプソスの調査でも共和党員の57%が出馬を望んでいる。2度目の弾劾裁判がこの後、上院で行われるが、弾劾賛成が上院の3分の2を超えることはないとみられ、トランプ氏は2度目の「無罪」を勝ち取ることで、政治の場に戻ってくる道が閉ざされることはないとみられる。

 数字上で見れば、トランプ氏は2024年でも依然として「有力候補」だ。バイデン氏に敗れたとは言え、7,400万票という驚くべき票数を獲得。敗れたバイデン氏以外に過去の大統領選でこれだけの票を獲得した候補者はいない。敗れた激戦区6州(アリゾナ、ジョージア、ネバダ、ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシン)は、いずれもバイデン氏との差が3ポイント以下であり、選挙運動の少しの改善で勝てる見込みがある。

 現職大統領が選挙に敗れ、その後の選挙で返り咲いたというのは過去に1度だけある。第22代大統領のグローバー・クリーブランド(民主党)は1888年の選挙でライバルのベンジャミン・ハリソン(共和党)に敗れたが、1892年の選挙ではハリソンを破り、大統領に返り咲いた。

 トランプ氏自身は2024年の立候補を公の場で直接、口にはしていないが1月20日、ホワイトハウスを去る際に、アンドルーズ空軍基地で支持者に向かって「我々はあなたたちを愛している。何らかの形で我々は戻ってくる」と語りかけ、今後も政治にかかわる意思を示している。かつての側近からは出馬を期待する声が上がっている。経済学者でトランプ大統領の経済担当の補佐官だったピーター・ナバロ氏は先週末、FOXニュースの番組に出演し「2024年の大統領選はトランプ氏が地滑り的に大勝するだろう」と語った。

 共和党全国委員会のロナ・マクダニエル氏はAP通信のインタビューで「党は中立でなければならない」と話し、トランプ氏が出馬するかどうかについて明言を避けているが、4月9~11日にフロリダ州パームビーチで開かれる共和党のスプリングミーティングにトランプ氏が招かれるとの見方が強まっている。この集会には共和党の有力スポンサーの実業家らが参集し、2024年の大統領選に立候補を検討している重要人物と協議する場となる。

 共和党内には、国会を襲撃した極右勢力を扇動したことでトランプ氏の政治生命は終わったという声は強い。大統領という強大な権力を離れた後に、どのぐらいの共和党員がトランプ氏の声に本気で耳を傾けるかは未知数だ。しかし、来年の中間選挙で共和党はトランプ人気に頼ろうとしているのも確かだ。1月28日、共和党下院のケビン・マッカーシー院内総務がフロリダ州のトランプ氏の自宅を訪れた。中間選挙への協力を要請し、トランプ氏も共和党が下院で過半数を握れるよう協力することで合意したという。

 「権力の切れ目が縁の切れ目」となることを避けたいトランプ氏にとってみれば、2022年の中間選挙は、自分の影響力を維持するための絶好のチャンスである。大統領に返り咲けるかどうかは、自分の選挙の前に、他人の選挙のために尽くして実績をあげられるかにかかっている。

 

◆イバンカ・トランプ氏(前大統領の長女、元大統領補佐官、実業家)

 

 トランプ前大統領が、上院の弾劾裁判など何らかの形で2024年の大統領選への立候補の道を絶たれた場合、トランプ前大統領は「キングメーカー」となるだろうとの見方が米政界やメディア関係者の間にある。その場合、前大統領が後継者として長女のイバンカ氏を指名して、立候補させるのではないか、というのだ。

 そんな話を加速させたのが、昨年暮れのイバンカ氏のツイートだった。アイオワ州のキム・レイノルド知事が州の合衆国加盟記念日を祝うツイートをしたのに対し「❤️Iowa!」とリツイートした。ハートマークとビックリマーク付きである。アイオワ州は半世紀近く大統領選で民主、共和両党の候補者を選ぶ党員大会の皮切りの州だ。アイオワ州の勝敗は指名競争レースに大きく影響する。大統領選に挑む者はみなアイオワ州を強く意識するため、イバンカ氏のリツイートは深い意味がなるのではないかと受け止められた。リツイートの後、すぐに「いいね」が1万件を超えた。

 イバンカ氏は2022年の中間選挙でフロリダ州の上院議員選への立候補も取りざたされている。改選となる共和党のマルコ・ルビオ上院議員は、トランプ前大統領の熱烈な支持者ではない。1月6日、米議会で行われた大統領選の結果承認の際、フロリダ州の結果に異議を申し立てることを拒否した。トランプ前大統領の意向に沿わない行動をとったのだ。こうしたことからイバンカ氏が上院議員選に立候補し、共和党の指名争いでルビオ氏つぶしに動くとの見方がある。フロリダ州をかき回すことは、大統領選にも有利に働く。

 

◆ドナルド・トランプ・ジュニア(前大統領の長男、実業家、元テレビ司会者)

 

 妹のイバンカ氏の陰に隠れているが、トランプ前大統領にとっては大統領を継がせたい1人といわれている。昨年のワイオミング州の上院議員選に立候補させる話があったが、本人が断っていたことが、米メディアによって報じられた。上院議員になるよりも、もっと大きな野望を持っていると伝えられている。ジュニア氏のガールフレンドは元FOXニュースの番組ホスト、キンバリー・ギルフォイル氏。トランプ前大統領とことあるごとに対立した現カリフォルニア州知事(民主党)の元妻である。

 

 

Taro Yanaka

街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

趣味は世界を車で走ること。