デニム生地が環境に与えるダメージの大きさをご存知だろうか。筆者は恥ずかしながら認識不足だったのだが、デニムはその生産過程が最も環境に負荷を与える素材の1つであるという。すでに多くのデニム企業が、この環境問題に本格的に取り組んでいるようだが、先日豪ファイナンシャル・レヴュー紙(AFR)には、この中でジーンズの世界的大手Levi’s社(Levi Strauss & Co.)の取り組みに焦点を当てた記事が掲載されていた。今記事ではこれを中心に、デニムの環境問題、いくつかの企業の取り組みを簡単にご紹介したい。

 

 「製品には何百もの小さな決断が必要とされ、実際にそうした些細な決断こそが、環境問題の潜んでいるところなのです」とAFR紙に語るLevi’s社グローバル・イノベーション担当副社長のPaul Dillinger氏は、“ファッションの最前線としての位置付けを保ったままで、デニムを持続可能かつ環境により良いものにする”という使命を請け負っているという。

 

 まず、デニムが環境破壊の要因になると言われている主な理由は、その製造過程で大量の水を必要とする点にある。通常ジーンズ1本あたり数千リットルの水が必要になると言われており、事実、Levi’s社のジーンズは、殆どが生産に約3700リットルの水を必要とするとのこと。また、2018年に掲載されたVogue紙の記事には、“繊維業界への監視が甘い地域では、染色と洗浄に使用される有毒化学物質(カドミウム、クロム、水銀、鉛、銅などの重金属)が川に直接排出され、回復不可能なレベルにまで環境破壊が進んでいる”との記載もみられる。

 

 Levi’s社でDillinger氏が主導している取り組みとしては、例えば「ウォーターレスWater<Less」と呼ばれるプロジェクトの存在が挙げられる。これは文字通り、従来に比べ少ない水でデニムを製作するというプロジェクトで、ゴルフボールやボトルキャップと共にタンブル乾燥機で「仕上げ」 (この場合、履き慣らしたように見せる加工のことを指すようだ) することによって、これまでに35億リットルの水を節約したという。

 

 また、同氏はさかのぼること5年前、Levi’s初となるウェルスレッド・コレクションWellthread collectionを発表している。これは、デニムとオーガニックコットンから作られたシャツ、ジャケット、ジーンズのシリーズで、再利用するにはプラスチックの分量が多すぎた従来のリサイクル(された)素材とは違い、何度でも繰り返しリサイクル可能であるとのこと。また、より最近で言えば、同氏は“コットン化された麻”——綿よりも早く成長し、生産に必要な水の量がはるかに少ないソフトな糸——も導入したという。

 

 他にも、もう着なくなったジーンズなど、リサイクルされる準備が整った商品に関して、Levi’s店舗に持ち込んでもらい顧客から回収することで、Blue Jeans Go Greenとの提携の元、綿繊維の建物の断熱材として再利用したり、あるいはRenewCellと呼ばれる革新的な新技術を使って新たなジーンズへと再利用したり、といった意欲的な試みを実践している。

 

 同氏によれば、RenewCelはこれまでと全く違う新たなリサイクル技術だという。“古い衣類(生地)を機械的に粉砕することで、一見綿のように見えはするものの、実際には(繊維が)大幅に短くなり、(オリジナルと)同等品質にはなり得ない”という問題を抱えた従来のやり方とは違い、“古い綿の衣服を化学的にベースレベルのセルロースに分解し、そのセルロースを全く新しいフィラメント繊維として再生成する”ものであると紹介されている。この方法の発見、開発により、同社は、今回の場合にはオーガニックコットンとブレンドした新しい繊維を生み出すことが可能になったといい、Levi’sの新品ジーンズのような見た目、肌触り、履き心地が達成されるとのことである。

 

 同氏は、環境問題、持続可能性に取り組むにあたって重要なのは、その場しのぎの解決策からさらなる問題を生み出さないことであるという。良くない例としては、ペットボトルをリサイクルしたポリエステル繊維をジーンズ素材に混ぜる方法が挙げられており、一見満足するが、実際には、出来上がったポリ混ジーンズは再リサイクル不可能であるというのだ。このように、これまでの問題を解決しようとして、うっかり新しい問題を生み出してしまうことが、持続可能性の分野ではよくあるのだと言う。

 

 また、“消費者の教育”も非常に重要であるとのこと。同氏は、「消費者には、自身(消費者本人)を商品の管理者(stewards)として認識してもらいたいと思っています」と言い、「乾燥機が衣類にとってどれほど悪なのか、あるいは捨てたジーンズが、適切に処分されなかった場合にはどこに行き着くのか…こういったことを理解すれば、人々の行動は違うものになるでしょう」と語る。

 

 Levi’s社の他にも、デニムの持続可能性、環境問題に取り組む企業は多く存在する。例えば同AFR紙は、2020年あたまには新進気鋭の米デニムブランドColovosを取り上げており、同社の、農薬不使用、水の使用量も削減したオーガニックコットン素材のデニム、33%のリサイクル素材を使用したコットン素材の取り扱い開始などを紹介している。

 

 さらに数日前には、スウェーデン初のファストファッションブランドH&Mの、米デニムブランドLee社とのコラボレーション開始のニュースも入ってきた。この“より持続可能な次世代のデニムを推進する”提携によって、両社はデニム生産のあらゆる段階を見直すとのことで、H&M初となる100%リサイクルコットンジーンズ(80%が産業廃棄物、20%が消費後の廃棄物から作られる)や、コルクとジャクロン素材で作られたフェイクレザーのバックパッチなどが生産される予定であるそう。

 

 さらにH&M社はこのプロジェクトにおいて、各デニムに関して、原材料から使用終了に至るまでの、水、CO2、エネルギーへの影響を示すライフサイクルアセスメント(LCA)データを、H&Mウェブサイト上で共有するという試みも実施予定。透明性を高くすることで、消費者の高い信頼を得ようという狙いのようだ。

 

 持続可能性、環境への配慮に焦点を持っていくと、どうしてもデザイン性や上質素材へのこだわりが犠牲になってしまう——そのような意見こそ、もう古くなってきているのかもしれない。勿論デザイン性の維持や遊び心なども欠かせないが、最近のファッション業界全体の“持続可能性”への配慮、あるいはそのアピールを見ていると、エコなことそのものが“トレンド”であり、“オシャレ”とされる時代に差し掛かっているといっても過言ではないのではないかと考えさせられる。

 

 

(A.Crnokrak)

 

 

*****************************

 豪州シドニー在住。翻訳・執筆のご依頼、シドニーにて簡単な通訳が必要な際などには、是非お声がけください→MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

*****************************