現在EUは、環境政策の一環であるe-モビリティ移行への取り組みの中で、非常に意欲的な欧州域内電池供給戦略を打ち出している。2017年に設立された欧州電池連盟(The European Battery Alliance)に伴い、EUや各国政府支援によるバッテリースタートアップ会社、自動車メーカー/電池メーカーとの合弁会社が、次々と欧州域内にEV用電池製造施設の建設計画を進行させている。欧州の数少ない老舗電池メーカーたちは、このバッテリー動向をどう見ているのか?

 

 IRuniverseでは今回、1918年創業のフランス電池メーカー大手SAFT Groupの企業環境・政務部部長(Corporate Environmental and Government Affairs Director)Patrick de Metz氏へ取材、現在および将来的な同社の事業フォーカス、リサイクルシステムから、昨年改定法案が発表されたEU電池規制の業界へのインパクト、日本企業との繋がりまで、幅広く話を聞いた。

 

 EU政策に伴うEV需要の大幅な上昇予測に誘導され、欧州ではEV用電池への注力に拍車がかかっている中、SAFTの事業フォーカスはトレンドに流されることはないようだ。そこには、宇宙開発、軍事、航空セクターなど、特に高い技術が必要とされる産業用バッテリーに特化してきた老舗企業のプライドが窺われる。

 

 

Q: 御社の現在の電池技術および市場におけるフォーカスは?

A: SAFT社はフランスに拠点を置き、欧州、北アメリカ、アジアに製造施設40箇所、雇用者4000人を抱える。当社の主要事業は高性能産業バッテリーで、消費者向バッテリー、車載用バッテリーについてはやっていない。高性能産業用バッテリーについては、航空や軍事セクター、予備電源用など、非常に要求の厳しい市場だ。

 

 バッテリー技術に関しては、当社では10種の技術を扱っているが、主要技術は3種となっている。まず、予備電源などに使われるニッケルベース、この予備電源が使われるセクターは、人命などに関わるものが主流だ。非常に厳しい環境で完璧に機能する必要のあるバッテリー需要にも対応している。

 

 次に、リチウムベースの一次電池で、少量電力を10年から15年、長期に渡って供給するのに使われる。例えば、スマートメーターや、IoT機器などで、グリッドに接続できない環境で仕様されるものだ。3番目は、高エネルギー密度で知られるリチウムイオン技術で、当社では、主に産業用オフロード車に使用されるバッテリーを製造している。他には、航空分野、大規模な電力貯蔵システムなどだ。またニッチ市場用の技術も数種扱っている。

 

 

Q: 将来的な事業フォーカスについては?御社は、昨年PSAグループとの合弁事業(社名ACC)を発表しているが、今後、車載用電池への移行も焦点に入れているのか?

A: SAFT社について言えば、当社の焦点は最初に言ったように、高性能産業用バッテリーであり、引き続きこの市場に留まるだろう。従って、消費者用電池や、車載用、EV用電池への移行は特に考えていない。確かに、PSAグループとの50対50の合弁であるACCを立ち上げたが、これはSAFTとは別企業と考えてもらいたい。この合弁では、EV駆動用バッテリーを扱うことになっているが、これは我々SAFTの管轄ではなく、今後の事業フォーカスについてはACCが独自に決めることになる。SAFTの事業フォーカスはあくまでも高性能産業用バッテリーだ。

 

 

Q: 御社のリサイクルシステムについてはどのようになっているのか?

A: まだリチウムバッテリーが大量に市場に出てくる以前、10年から15年前のことだが、当社は既に使用済み電池の処理サービスを顧客に提供するという企業政策を推進していた。80年の終わりから90年の初めにかけて、当社は、顧客へのテイクバック(回収)およびリサイクルサービスの提供を開始した。

 

 当時の主流はニッカド電池だが、顧客の使用済みバッテリーを回収し、当社が長期的事業契約を結んでいるリサイクラーのネットワークを通じて、リサイクル処理を手配していた。欧州、アジア、北アメリカのリサイクラーだ。およそ30か国から使用済み電池を回収し、この3地域のリサイクラーへ輸送するといったシステムを取っていた。ニッカド電池へ特化しているリサイクラーだ。

 

 現在、当社はこのニッカドをリチウムイオンに置き換えており、リチウムについても顧客へ環境負荷の少ないバッテリーリサイクルサービスの提供を検討している。

 

 

Q: 御社は日本リサイクルセンターと提携していると聞いているが、現在も事業関係は続いているのか?

A: 大阪にある日本リサイクルセンターは、当社のパートナーの一つだ。この会社との事業関係は既に10年近くになると思う。とても信頼のおける会社であり、当社は非常に満足している。当初は小規模な契約からスタートしたが、年と共に契約規模も成長してきた。

 

 

Q: 昨年12月に法案が発表されたEUの新電池規則について、御社および産業へどのような影響が考えられるか?

A: この新法案は、現行電池指令のスコープを拡大するものだが、例えば我々の事業関連では、まずEPR(生産者拡大責任)がある。新法案では、過去10年における変化に対応するよういくつかの補足事項が入ることになるが、そこまで大きな変更はない。ただし、もし現在の法案が最終採択されれば、バッテリーのデザイン項目については、大きな変更となる。

 

 施策者の目的は、環境への負荷を可能な限り削減することであり、電池製造過程におけるカーボンフットプリント、再生材の含有量、長寿命用設計、解体や維持を容易にする設計などにおける義務事項を設置することで、これを実現していくというものだ。その概念は、「修理、リサイクル、別目的利用」だ。そして、その対応には、電池メーカーがバッテリーの設計自体を変えていく必要がある。

 

 当社に関しては、新規則の内容についても準備は整っていると言える。

 

 例えば、電池の長寿命設計についてだが、当社はもともと高基準や高性能を求められる市場に特化しているため、特に難しいことではない。

 

 カーボンフットプリントの削減については、引き続き取り組みが必要だが、例えば、欧州やフランスでは、再生エネルギーへのアクセスが可能であるため、域外の競争相手に対しても有利だと思う。

 

 再生材使用については、まだ課題が残っている。特にリチウムイオンについては、市場は急速に成長しているが、電池が使用済みとなるのはまだ何年も先となる。従って再生材として利用するのに十分な二次原料を確保することが、少なくとも向こう15年間は大きな課題となるだろう。

 

 

Q: 法案内容については、このまま採択される可能性が高いのか?

A: 法案については、まだ最終化されているとは言えない。従ってまだ調整の必要があると考える。だが、一般的には新法案内容をポジティブに捉えている。

 

 

Q: 新法案に含まれているバッテリーパスポートの導入について、日本の業界では知的財産権への懸念を示す声も聞かれるが、この点についてはどのように捉えているのか?

A: バッテリーパスポートに関してはまだ最終化はなされていないが、情報開示について一つはっきりしているのは、リサイクラー向けに、どのようにバッテリーが製造されているかについての情報開示が義務となることだ。

 

 日本の業者の懸念についてだが、日本では、既に電池情報のレベル表示が義務化されている。リサイクラーが化学物質を選別するのに必要な極めて詳細な情報だ。従って、日本の業者はこの種の情報開示には既に対応しており、これに多少の補足情報を載せる程度ではないか。

 

 パスポートの主要目的は欧州リサイクラーの選別処理をより容易にするということであり、既存の日本の(情報開示の)システムを使えば、特に難しいことではないと思う。もちろんIPに触れない様な配慮は必要だが、今回の欧州委員会のアプローチは日本のそれと同じラインだ。特に懸念の対象ではないと思う。

 

 

Q: 今後、日本企業とのパートナーシップについては?

A: 前に述べた様に、当社はリサイクルセクターで既に日本の企業とは一緒に事業を行っている。他のセクターについては、まず我々の主要フォーカス分野において、どのような可能性があるのか検討する必要があり、ケースバイケースだ。

 

 今この場で言えるのは、当社は他社からのアプローチにはオープンであるということだ。

 

 例えば、もし、当社に興味のある企業をご存知というなら、御社を通じて私にコンタクトしてもらえば、必要に応じて担当者を紹介することも可能だ。また当社は日本にも子会社を持っており(SAFT JAPAN)、そちらに打診してもらうこともできる。日本を通して、あるいは欧州へ直接コンタクトしてもらうという2通りの方法がある。

 

取材:

 ・Mr. Patrick de Metz

 ・Saft Group
  Corporate Environmental and Government Affairs Director

 

 

(Y.SCHANZ)

 

 

********************************

SCHANZ, Yukari

 オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。

 趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。

*ヨーロッパに御用がある際はぜひご連絡ください→ MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

*********************************