前のコラム(→ Air Plane World♯24 航空大手二社が掲げる「航空機を飛ばせないが黒字を目指す」を考察)では、大不況下の航空会社が生き残る選択肢として、一時的な派遣業への転換について考察しました。ただ、日系大手2社については、「社員を護る」という方針を固めていますが、残念ながら中堅、LCC、そして外資系などはすでにリストラを始めているようです。

 

 前のコラムに書きましたように、既に大手2社については、他企業への社員の「派遣」はすでに行われていますが、その他に「副業」の許可など、私自身が在籍していた時代では考えられないような施策が行われているようです。基本的に、JALのような歴史ある大企業は、副業を認めてはいませんでした。その理由は、副業により本業をおろそかにしてしまう恐れがあったからですが、それに加えその本業が「航空」という、一歩間違えば大事故につながる恐れがある業界であるという事から来ているとも言えます。

 

 しかしその業界も、乗ってくれる人がいません、飛行機が飛ばせませんでは、企業活動ができないことは明確であり、結果従業員に給料など払えないことはわかりきっています。そこで、他企業に「派遣」という流れは画期的とも言えます。そんな中、国内リサイクル業界では注目される動きがありました。

 

 主にアメリカで行われていた「航空機リサイクル」がついに動き出したという事です。

 

 

航空機解体を行うエコネコルは「特殊すぎる」職種、航空整備士の受け皿になりえるか

 昨年、政府専用機2機を落札して一躍航空機業界でも知られることになった総合リサイクルの上場会社であるエンビプロHDの中核会社のエコネコルはすでに航空機リサイクル事業も始めております。名古屋の小牧空港などで。

 

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 同社においては、昨年の政府専用機を落札直後辺りから、有識者や、業界に詳しい記者などから、今後の航空機リサイクルの可能性と動向などを調べ上げ、ついに事業化にこぎつけたようです。リサイクル企業が、ついに航空業界に参入した事実と言えるでしょう。

 

 そしてこのタイミングで、その航空業界の主役たる航空会社が未曽有の大不況に陥っており、数万単位の従業員を抱える日本のメガキャリアは、先ほどもお話ししたように、従業員の職を護ると発言しています。その方法に、前のコラムでお話しした「出向」「派遣」という選択をしているようですが、これは「もしかすると」の話ですが、この出向先に「エコネコル」が受け皿になる可能性も秘めています。

 

 というのも、飛行機が飛んでいない現実から、多くの「整備士」も余剰人員として存在していることも考えられますので、特に航空機解体事業をしているエコネコルにしても、航空業界の最前線にいる整備士が解体現場にいるとすれば、取り出した部品の需要や、効率の良い解体などのノウハウを得られるチャンスとも言えます。

 

 あまり大きな声では言えませんが、航空業のスキルはいわゆる「潰しがきかない」と言われるような、特殊過ぎるスキルが多く存在します。その代表例は、空港における、航空機への搭降載作業、いわゆる「グランドハンドリング」でしょう。

 

 この職種は、就職してから習得するスキルが、別の職種に転職の際に、まったく役に立たず、結果として転職のために退職した社員が、空港へ戻り、競合他社に就職するという光景が多くみられます。つまり、グランドハンドリングのスキルとは、空港内では引く手あまたかもしれませんが、空港を出てしまうと全く役に立たないスキルという事です。

 

 これと同じように特殊過ぎるというものについては、「整備士」も入るかもしれません。航空整備士は、基本航空機を整備するための職種です。しかし、その航空機が飛ばせません、飛びませんでは、存在価値が薄れるというものです。しかし、航空整備士は、非常に厳しい試験を合格する必要があり、誰もがなれる職種ではないことも確かで、あまりにも「特殊」で「特別すぎる」とも言えます。加えて、年に数回の試験を受けなければいけないため、どうしても空港、航空機から離れるわけにいかないというジレンマもあるでしょう。ただ、数年前のように、航空業界がバブルだったころは、航空会社も航空機を次々に導入し、それと同時に整備士も増えていきました。しかし、現在は?言うまでもありません。

 

 そこで、エコネコルの様な航空機の解体に従事している企業への派遣が、余剰している整備士の救済になるかもしれません。エコネコル側としてみれば、解体する際に、どの部品が売れるとか使えるとかそのような知識を持ったスペシャリストを手に入れるチャンスとも言えます。情勢を見て「転籍」なんてことも可能になるかもしれません。

 

 ただ、受け入れるにも、リサイクル業界全体が、航空業界と同じように大不況に見舞われているようであれば、同社に受け入れる体力があるかが焦点となり、つまりは、エコネコルにそのような財政的余裕があるかどうかが焦点となるでしょう。

 

 いずれにしても、今後同社が航空機解体事業を単独で、そして同社だけの商品として独占するには、主役の航空業界が大不況に陥っている今がチャンスかもしれません。

 

 

(文:金剛たけし)