米国のメディアにこのところ頻繁に登場するのが「Boogaloo」と「Second  American Civil War(SACW)」という言葉だ。「Boogaloo」は極右運動の総称で、ほとんどがトランプ支持者である。この運動が目指すところが「第2次南北戦争」。それが「Second  American Civil War」だ。米国では6日のトランプ支持派による国会襲撃の後も、各地で極右勢力による集会などが開かれ、治安当局の厳しい警戒が続く。バイデン新政権は国民融和を目指すが、分断はさらに深刻化している。奴隷制の存続をめぐって国を二分した南北戦争(1861~65年)は、奴隷制の廃止を主張した北部のリンカーンが大統領に就任したことによって始まった。大統領に就任するバイデン氏は「第2次南北戦争」を防げるのだろうか。(写真は南北戦争時の様子=Yahoo画像から引用)

 

 就任式を3日後に控えた1月17日、日曜日にもかかわらず米国は不穏な空気に包まれた。テキサスやオハイオ、ユタ、ミシガンなどの州で、銃などを持った「Boogaloo」の活動家が州都などに集まった。ニューヨーク・タイムズ紙によると、少なくとも19州で州兵が州都に派遣され、警戒にあたった。目立った混乱はなかったが「Boogaloo」の活動家の間では、州レベルで議会を占拠しようとする動きがあり、緊張は全米に広がっている。

 

 「Boogaloo」を構成しているのは銃所持推進派や反政府活動グループ、ネオナチ、白人至上主義、反LGBTらの団体などで、主張の内容は様々だ。

 

 「Boogaloo」という言葉はインターネットの書き込みサイト「4chan」で生まれた。1984年に公開されたブレイクダンスを題材にしたコメディーミュージカル映画「Breakin' 2: Electric Boogaloo」のタイトルを、投稿者らが面白がって使ったことがきっかっけだ。白人至上主義や人種差別などを表現する際に使われるようになり、いつしか、極右運動全体を示すようになった。

 

 「Boogaloo」の活動家のことを「Boogalooers」や「Boogaloo bois」などと記している。運動には中心的な人物はいない。ソーシャルメディアなどインターネット上で情報交換することで緩やかに「組織化」され、賛同した個人や団体が、黒人運動「ブラック・ライブズ・マター」に反対する人種差別的な集会や、新型コロナ感染拡大のためのロックダウンに反対する集会に参加するといった形で活動を繰り返してきた。

 

 昨年10月のミシガン州知事誘拐未遂事件や今回の国会襲撃も「Boogaloo」による犯行で、犯行の規模や悪質さの度合いは拡大の一途をたどっている。

 

 深刻なのは共和党の政治家の中にも、「Boogaloo」に共鳴して好戦的なことを発信する動きが広がっていることだ。

 

 AP通信によると、ミネソタ州のミネアポリスに隣接するウィスコンシン州セントクロワ郡の共和党支部は、国会襲撃に呼応して「戦争の準備をしろ」とインターネット上に書き込んだ支部の議長を解任した。また、ミシガン州共和党の次期議長と夫の州議会議員が、内乱、戦争をテーマとするサイトの創設にかかわっていた。カリフォルニア州サンタクララ郡の共和党幹部は国会襲撃があった際に、ソーシャルメディアに「戦争が始まった。市民よ 武器を取れ」と書き込んだ。

 

 共和党では国会にも極右の謀略論信奉者がいる。昨年の下院選でジョージア州の選挙区で初当選したマージョリー・グリーン議員だ。下院がトランプ大統領への2度目の弾劾訴追を決議したことに反発し、バイデン氏が大統領に就任した翌日にバイデン氏の弾劾を提案すると、ツイッター上に書き込んでいる。グリーン氏は他の書き込みが倫理に抵触するとしてツイッター社から12時間の使用禁止を課せられた。

 

 「Boogaloo」を扇動したとされるトランプ大統領は20日に首都ワシントンを去る。故郷のニューヨークには戻らず、フロリダ州にある自身の別荘「マー・ア・ラゴ」に住む。大統領選挙を前に一昨年秋に居住地をフロリダ州に移転していた。

 

 関係者によると、フロリダ州に住むということは、ビジネスで得た利益もフロリダ州に移すということになるという。

 

 しかし、ニューヨーク南部地区連邦検事局(SDNY)とニューヨーク州の司法当局はトランプ氏の金融取引について捜査を続けている。税金支払いの実態や、アダルト女優への口止め料問題、就任式(2017年)の不透明な支出問題などについて、連邦と州の双方のダブル捜査が十分な時間をかけて進んでいるのだ。

 

 SDNYは全米でもトップの敏腕検事集団。「泣く子も黙る」捜査機関として知られる。巨額なカネが絡む知能犯の捜査はお手の物で、ニューヨーカーが「ここに睨まれたら、必ずやられる」と話すほど恐れられている。

 

 また州もやる気満々。レティシア・ジェームズ州司法長官は先月、米ABCテレビの人気トーク番組「ザ・ビュー」に出演し、「トランプ氏は正義を避けることはできない」と立件に自信をみせた。ジェームズ州司法長官は、この2年間でトランプ氏のビジネスに対する68の訴えを調べている。

 

 トランプ氏の娘、イバンカ氏と夫のクシュナー氏もニューヨークには戻らない。フロリダ州の高級住宅地として知られるインディアン・クリーク島に、日本円にして30億円の超高級住宅を購入した。長男とそのガールフレンドもフロリダ州のジュピターに移り住むという。トランプ一家はニューヨークから逃れるように、そろってフロリダ州に引っ越しだ。

 

 トランプ氏の去就がどうなるにせよ、FBI(米連邦捜査局)などは国会襲撃でトランプ氏を支持する極右グループの動きは活発化するとみている。

 

 トランプ氏は昨年9月の大統領選討論会で「Boogaloo」の一角にある極右グループ「Proud Boys」に支持されていることについて司会者から尋ねられ、グループを非難することを避け、次のように話した。

 

 「Stand back and Stand by」(少し下がって準備をしておけ)

 

 国会襲撃は「Boogaloo」がトランプ氏の言葉に忠実であったことを証明した。

 

 

Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。