ロジウムの上昇に拍車がかかり、1月15日にはスポット価格で2万1,000ドルの大台に水準を切り上げている。昨年末と比較して約25%、一昨年末と比較すると、実に251%も急騰している。この急騰の背景には、中国におけるロジウムの需要拡大と南アの供給不安があり、タイトな需給バランスは今年に入ってより深刻化な状況に陥っている。(グラフは齊藤氏が提供)

 

 

 まず、ロジウムの需要を知る上で、同じ触媒としてのパラジウムの動向を把握しておく必要がある。トランプ米政権は、米国ファーストの観点から米国・カナダ・メキシコの自由貿易協定(NAFTA)を見直し、3カ国による新たな自由貿易協定(USMCA)を締結することで2018年11月に合意している。これによって、米国国内での自動車生産の拡大をもたらすことになった。トランプ米政権は日本や欧州にも米国での自動車生産拡大を要求していた。

 

 また、米国は好景気に合わせて米国国内での自動車販売も好調で、特に大型車の売れ行きが目立っていた。大型車ほど、自動車用触媒の使用比率が高まる。その結果、米国での自動車用触媒の需要増加が顕著となり、米国での主な触媒として使用されていたパラジウムが2019年に急騰を演じ、それに対してCMEグループがニューヨークのパラジウム市場の証拠金を大幅に引き上げるなどして、相場の鎮静化を図った経緯もあった。

 

 日本や欧州での自動車用触媒の中心は白金であるが、米国や中国はパラジウムが中心だった。このパラジウムの急騰によって、中国での自動車用触媒として従来から使用されていたロジウム需要の高まりがもたらされたと考えられる。

 

 中国では環境対策として、電気自動車(EV)中心の将来的な自動車生産・販売が計画されていたが、2019年秋、その政策が大きく見直されることになった。中国の電力供給が石炭中心であるため、EV車が普及すれば、それだけ石炭需要が高まり、逆に二酸化炭素(CO2)を多く排出することが懸念され始めたためである。EV中心から、EV5割、その他5割を低燃費のガソリン車やハイブリット車などを認めることになった。ガソリン車には当然ながら、厳格な自動車排ガス基準が適用されることとなり、今まで以上に自動車用触媒の需要が高まることになったといえる。これによって、パラジウムとロジウムの相場上昇に弾みが付いたともいえる。

 

 中国での新型コロナウイルス感染抑制が続く中、昨年12月までの中国の自動車販売は9カ月連続で増加しており、その中心もガソリン車であり、触媒需要の増加傾向が裏付けられる状況でもある。一方、ロジウム供給のほとんどが南アフリカである。2019年の世界生産は72.6万オンス(約20.6トン)ながら、そのうち、61.0万オンス(約17.3トン)、約84%が南アとなっている。

 

 世界のロジウム生産は2017年が78.0万オンス(約22.1トン)、18年が75.3万オンス(約21.3トン)、そして19年が72.6万オンス(約20.6トン)と年々減少傾向をみせていたが、2020年は新型コロナウイルスの影響で、世界の生産は63.8万オンス(約18.1トン)に大幅減少するとみられており、そのうち南アフリカは51.6万オンス(同14.6トン)。

 

 南アでも昨夏(南アでいうところの冬)に、新型ウイルス感染拡大によって鉱山の生産一部停止の動きもみられたが、秋には操業再開の運びとなっていた。しかしながら、南アでの変異ウイルスの発生によって、昨年末から感染が急拡大しており、鉱山の操業停止に追い込まれるところも出ており、その変異ウイルスのリスクの懸念から、今まで以上に南アの供給不安が深刻化しつつある。

 

 中国でも北京のある河北省中心に新型コロナウイルスの感染が拡大しており、ここまで好調だった自動車販売にブレーキがかかることも留意される状況にある。ただ、2021年は中国共産党が建党100周年を迎えるだけに、中国共産党にとって経済発展は絶対条件であるため、自動車販売の鈍化があっても、一時的で、極めて限定的にとどまると推測される。

 

 中国での石炭中心の電力供給の見直しにはかなりの時間を要するとみられるだけに、厳格な自動車排ガス基準を適用しながら、ガソリン車の生産・販売を維持するとみられ、その意味で、ロジウムの需要拡大は今後とも避けられない状況にある。

 

 米国では1月20日にバイデン新政権が発足するが、バイデン次期政権はトランプ米大統領が脱退したパリ協定に復帰する措置を講じるなど、地球環境を踏まえた政策を推し進めると考えられる。ただし、いきなりEV車を自動車生産の柱にすることは考えにくく、大統領選の公約だったバイオ燃料のガソリンへの混合比率の拡大によって、自動車のCO2削減の政策を進めると想定され、米国でのパラジウム中心の触媒需要の高止まりは続くだろう。つまり、中国にとっては、引き続き、ロジウムへの依存は継続するとみられる。

 

 ところで、昨年11月にBASFから出た2020年のロジウムの供給不足見通しは4.7万オンス(約1.3トン)であり、21年は16.2万オンス(約4.6トン)、22年は33.5万オンス(約9.5トン)にそれぞれ供給不足が拡大するとしている。新型コロナウイルスの南アでの感染の長期化によっては、BASFが推測した以上の供給不足に陥る可能性もある。

 

 ロジウムが南アに供給の大部分を依存する構図のなか、供給不安は絶えず付きまとうことにもなる。2万1,000ドルの大台はさすがにかなり高いと言わざるを得ないものの、需給バランスのひっ迫した状況の改善は今後も厳しく、2万ドルを通過点として、21年も上昇基調が続くとみるべきである。

 

 

齊藤和彦(さいとう・かずひこ)

フジトミ 情報サービス室・チーフアナリスト