IRuniverseでは、鉛蓄電池業界のコンソーシアム、The Consortium for Battery Innovationの会長を務めるAlistair Davidson博士に、EV化への移行に伴いリチウム電池の大幅な需要が予測される中で、E-モビリティ時代における今後の鉛蓄電池業界の方向性について話を聞いた。

 

 

Q: バッテリー・イノベーションコンソーシアム(The Consortium for Battery Innovation:以下CBI)の主要活動は?

A: CBIは、鉛蓄電池に特化した研究開発と革新への取り組みとその推進を行なっている。鉛蓄電池だけに焦点を当てているのは、世界でも当組織のみだ。会員はパートナーを含め世界で100名を超え、欧州と北アメリカに拠点を持っているが、現在アジアでの活動も上昇している。日本にもパートナーや会員を持っており、我々の主要メンバーである古河電池は、多くの素晴らしい革新や研究開発に取り組んでおり、日本は重要な腕力だと思っている。

 

 

Q: e-モビリティへの移行期間とその後における鉛蓄電池業界の戦略は?

A: CBIのフォーカスは、鉛蓄電池の研究開発とその技術および性能の改善だ。当組織では昨年、鉛蓄電池における「技術ロードマップ」を発表し、研究ゴールを設定した。その中で、特に2つの取り組み分野を挙げており、一つは自動車セクター、もう一つはエネルギー貯蔵セクターだ。自動車セクターでは、マイクロハイブリッド車のスタート/ストップシステム(アイドリングストップ)技術の重要なパラメーターである鉛蓄電池のDCA* (dynamic charge acceptance)の改善だ。2022年までに、現在の5倍(2 Amps/Ah)まで引き上げることを目標としている。

 

*寿命性能:古河電池株式会社による資料より:https://corp.furukawadenchi.co.jp/ja/ir/library/annual/main/012/teaserItems1/01/file/ar_2017.pdf

 

 エネルギー貯蔵セクターは、業界にとって大きなビジネス機会だと捉えており、電池のサイクル回数(cycle life)の改善に取り組んでおり、2022年までに5000 サイクルまで引き上げることを目指している。短期的なゴールを設定し、確実に達成することで、現市場で、鉛蓄電池が引き続き重要な役割を果たていくよう注力している。

 

 現在、ニューヨークで新しいプロジェクトを立ち上げたところで、自動車メーカー4件と共同で作業を行なっている。またドイツの研究機関とは、鉛蓄電池へカーボンを利用するプロジェクトを行なっている。この他、アメリカのUCLAとも共同プロジェクトが進行中だ。これらの現行プロジェクトに加え、エネルギー貯蔵についても、電池のサイクル回数改善に取り組む新プロジェクトを立ち上げる予定だ。

 

 

Q: 中期、長期的な展望については?

A: 今後、自動車の電気化が進んでいくのは確実だ。2030年以降、これまでの化石燃料車から、マイクロハイブリッド車、ハイブリッド車、電気自動車まで、車の電気化はどんどん進んでいく。これら全ての車種において、鉛蓄電池は重要な役割を果たすものだ。マイクロハイブリッド車に関しては、アイドリングストップシステムに使われているのは、ほぼ全て鉛蓄電池だ。従って、マイクロハイブリッド車は、業界が最も焦点を当てているセクターだ。自動車がフルEVへ移行する長期的な展望でも、鉛蓄電池の役割は引き続き重要となる。動力用としてリチウム電池を搭載するEVのほとんどが、補機用電池として鉛蓄電池を搭載している。例えば、運転中にリチウム電池が作動しなくなった場合、鉛蓄電池が代わりに起動し、パワーステアリングやブレーキなどの機能を引き継ぎ、車 を安全に停止させる役割を果たす。

 

 エネルギー貯蔵システム分野は、今後、世界各国の政府によるカーボン排出や電気化など、環境政策へのゴール設定などによって、大きく成長すると見ている。エネルギー貯蔵についてもリチウム電池需要の上昇が予想されている。一方で、鉛蓄電池は、現段階で必要とされる全ての基準に対応しているため、その需要も引き続き上昇するものと予測している。当組織のサイトでは、鉛蓄電池を使用したエネルギー貯蔵システムのプロジェクトマップを公開しているので参考にしてもらいたい。このビジネス機会は、一定地域に限られたものではなく、グローバルなものだと考えている。

 

 また、この2セクターだけに限らず、産業通信やUPSなどの他市場の需要も上がってきており、こちらにも目を向けている。

 

 

Q:現在および鉛蓄電池の技術がさらに改善される将来において、リチウム電池に対する鉛蓄電池の有利性とは?(特に自動車およびESSセクター)

A:鉛蓄電池は古い技術だと考えられがちだが、その技術や性能は、例えば20年前との比較では大きく進歩している。またその長い歴史から電池の性質も十分理解されており、安全性も高い。加えて、コスト効率、リサイクル効率も非常に高く、サステナブルだ。欧州と北アメリカでは、ほぼ99%の鉛蓄電池が回収され、リサイクルされている。異なる技術を用いた電池は、それぞれの利点を最適化する方法で使用されるべきだ。リチウム電池はEVに最適だが、12Vバッテリーへの使用については、鉛蓄電池の方がより適しており、現在自動車メーカーの全ての基準に対応できる唯一の技術だ。リチウム電池の12Vバッテリーへの使用については、研究が進み技術も改善されているが、それでもまだいくつかの課題を残している。特に高温環境における性能や、低温度でのエンジンのスタートなどだ。リサイクル面やコストの高さなどについても課題が残る。

 

 エネルギー貯蔵セクターについては、鉛蓄電池の一番の利点は、これまでに証明されてきた安全性だ。鉛蓄電池の化学的性質は十分理解されている。リチウム電池との比較では、同レベルでの安全性の問題はないということだ。

 

 

Q:昨年、提案書が発表された欧州新電池規則について、鉛業界の反応は?新措置に関わる行政や技術面での業界への負担についてはどうか?

A:業界は、新規則の発表とその目的に賛同し支持している。特に、欧州市場で販売される電池はサステナブルで、安全であるべきだという点と、リサイクル効率を上げ再生材使用の推進し、カーボンフットプリントを最小限に留めるという基幹方針は、我々鉛蓄電池業界の現状を反映するものでもある。

 

 鉛蓄電池には、既にクローズドループシステムのインフラが整っており、製造には80%以上の再生材が使用されている。また、鉛蓄電池における環境フットプリントは非常に低いことも証明されている。新規則の内容は、我々鉛蓄電池の役割を強調するものでもある。現在、2次電池市場の70%を占める鉛蓄電池が、今後カーボンフットプリントの削減へ向け重要な役割を果たすということだ。鉛蓄電池は、欧州でも最もリサイクルされている電池であり、循環型経済の成功例である。

 

 

Q: では、特に業界からの行政上などの負担についての不満などは聞かれないないのか?

A: 今の段階では、行政面での負担などについてはまだはっきりしたことは言えないが、基本的に新措置を支持するというスタンスで、特に不満などの声はない。

 

 

Q: 現在見直しが行われているELV指令のAnnex IIのリスト番号5(b)「電池に使用される鉛の使用禁止除外」における方向性は?将来的なフェーズアウトの可能性については?

 

→(関連記事)欧州からの風#182:規制編 「欧州ELV 指令、車載用電池へ使用される鉛成分規制除外、延長なるか?」

 

A: 欧州委員会の基本姿勢は、鉛の使用を禁止することだが、どうしても必要なことが証明される場合について除外を認めており、車載用鉛蓄電池に使用される鉛もその一つだ。環境総局は、5年ごとにこの除外措置についての見直しを行なっており、その際に問われるのが、鉛の代替品が存在するかどうかということだ。従って、業界は、車載用の鉛蓄電池技術における代わりがないことを証明しなければならない。最近の見直し作業については、昨年に諮問会が開かれた。当組織は、欧州自動車生産者協会(ACEA)、日本自動車工業会、韓国自動車生産者協会、EUROBATなどの組織と共同で報告書を提出し、その中で、現段階では車載用の鉛蓄電池を置き換える技術はないことを論証している。また、鉛蓄電池は現在車載用電池における自動車メーカーが必要とする全ての技術的な基準を備える唯一の技術であること、欧州における高リサイクル率、他の技術に比べ(特にリチウム)製造過程における鉛蓄電池の環境への負荷は非常に低い(6分の1)ことも証明している。今回も、非常に有効な論証を行なったと思っている。今後まだ見直し作業が続くため、結果についての意見は控えたいが、自動車業界としては、必要な論証は行なったと言っておく。

 

 一つ言えることは、リチウム電池が鉛蓄電池の代替品として全ての条件を満たし、安全性についても立証が行われるまでにはまだ多くの年月を要する。加えて、自動車メーカーが、自動車部品としての機能性や安全性について立証するにも一定の時間が必要となる。一方で鉛蓄電池は、リチウム電池がまだ到達していない大規模なインフラも欧州内に構築済みだ。従って、我々は、鉛蓄電池の将来を「ポジティブ」に捉えている。

 

コンソーシウムバッテリーイノベーションサイト:https://batteryinnovation.org

 

 

(Y.SCHANZ)

 

 

********************************

SCHANZ, Yukari

 オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。

 趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。

*ヨーロッパに御用がある際はぜひご連絡ください→ MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

*********************************