2021年の年明け、世界の株式市場ではダウ工業株30種平均や独株式指数(DAX)、韓国の総合株価指数(KOSPI)、ブラジル・ボベスパなどが軒並み史上最高値を更新している。日経平均株価も1月8日、前日比648円90銭(2.4%)高の2万8,139円で取引を終了、30年ぶりに2万8,000円台を回復した。米株式相場の好調さはこのまま続くのか、債券や外国為替、金(ゴールド)や原油などのコモディティ相場は今後、どのように推移するのかについて、MIRUPLUSは1月11日、インベスコ・アセット・マネージメント(旧インベスコ投信投資顧問)日本法人の元チーフ・インベストメント・オフィサー(CIO)、川上敦氏に聞いた。(写真は川上氏が提供)

 

 

MIRUPLUS(以下、MP)

 ダウ平均などが各国の株価が軒並み最高値を更新していますが、米国株価の現状についてどういう印象をもっていますか。株価で判断すると、新型コロナウイルス感染拡大による経済へのダメージから脱却したとみてよろしいですか。

 

川上氏

 ダウ平均株価は企業業績のモメンタムで買われていません。つまり、業績の伸びを反映して買われていないということです。米ジョージア州で民主党が最後の2議席を確保したことで、上下両院を制したバイデン新政権に対する安心感があります。新政権が財政拡大を進めるだろうとの期待感の表れに加え、金融緩和政策が続くとの見方が相場全体を下支えています。

 

 

MIRU - NY株価相場情報 (iru-miru.com)

グラフ

 

 

MP

 民主党から大統領が選出、しかも上下両院の過半数を制する、いわゆる、ブルーウェーブ現象は株価上昇のさらなる追い風となりますか。

 

川上氏

 (米国会での)ねじれ現象の解消は買い安心感につながりますが、新型コロナウイルス感染の拡大阻止で民主党は共和党よりも都市封鎖に積極的な姿勢を見せています。そうなれば、航空をはじめとする運輸業界など従来型産業へのダメージも測りしれず、IT(情報技術)といった先端型産業だけで米国経済全体を引っ張っていけないのでは、との懸念もあります。1~3月を考えたとき、市場に織り込んでいるほど株価は順調かどうか疑問です。コロナワクチンの効果も3月までに出てこないと思います。(冒険投資家の)ジム・ロジャーズ氏も言っていますが、米国の株式相場はバブル絶頂に近いかもしれません。アジャストメント(調整)がいつ起きてもおかしくない状況です。私は1~3月までの間に調整が入るとみています。その後、米株価は年央以降にV字回復するのではないでしょうか。

 

MP

 国債増発が嫌気されるなか、米10年債利回りは現在、約10カ月ぶりに1%台を上回っています。金利上昇が株式市場に与える影響をどう分析していますか。

 

川上氏

 1%は適正水準とみています。0.5%は低すぎ、その分調整が入っています。短期金利、3カ月から2年債はほとんど動いていません。長期と短期の金利動向をみていると不自然さを感じます。一部の投資家の需給問題と捉えれば、国債増発の影響は大きくないでしょう。

 

 

MIRU - 為替円(米ドルTTS)相場情報 (iru-miru.com) 

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MP

 外国為替市場では、バイデン新政権による大規模な財政出動で、国債増発が(米国債の)格下げリスクとして表れ、一段のドル安が進行するのではとの見方が広がっているようです。為替相場の見通しはいかがですか。

 

川上氏

 13兆ドルとされる米国の対外純債務がさらに拡大する兆しがあります。財政バランスの悪化からドルが売られる局面は続くと思います。ただ、昨年3月のようにコロナ禍による外出制限などで経済全体がシュリンクし、新興国などを中心にドル不足が生じ、ドルが買い戻される現象が見られました。コロナ禍が終息しないなか、短期的なドル高を演じることがあるかもしれません。

 

MP

 コモディティ相場について聞きます。主要国が継続する金融緩和と財政出動は金(ゴールド)相場にプラスに働きます。ニューヨーク市場で昨年、金先物相場が一時1トロイオンス2,000ドルの大台に乗せました。引き続き、地合いは強いとみてよいですか。

 

川上氏

 米ドルの代替資産としての金は注目されるでしょう。金と絡めてロシア、中国などとの通貨覇権争いが表面化するかもしれません。特に中国の動向をみておく必要があります。デジタル人民元の導入などは政治的な思惑で動いています。(中国は)ドル建ての外貨準備高を減らし、金準備高を増やすことを既定路線にしています。その意味で、ニューヨーク金相場は年内に3,000ドルを目指す展開と読んでいます。

 

 

MIRU - NY原油(WTI)相場情報 (iru-miru.com)

グラフ

 

 

MP

 原油相場の見通しはいかがですか。

 

川上氏

 石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非加盟国から構成されるOPECプラスが先に減産を打ち出した効果もあり、ニューヨーク市場でWTI先物相場は現在、1バレル50ドルを上回る水準にあります。米エネルギー情報局(EIA)のデータでは、原油は若干の供給不足としていますから現在の水準は当面、維持されるでしょう。シェールオイルの損益分岐点は45ドルとされているようですが、今後、リグ(石油掘削装置)の増加が予想されるので高値を長期的に維持するのは難しいとみています。コロナ禍が終息したとしても、経済レベルが2019年の水準に戻るとは考えにくく、そうした点を踏まえれば、1バレル40ドル台前半がバランスした価格といったところではないでしょうか。

 

MP

 最後に、国際マーケットを判断する上で注目すべき点を挙げるとすれば、何でしょうか。

 

川上氏

 まずは、米国の先端企業がダイナミズムを維持できるかどうかという点です。ハイテク株などこれまでのような勢いが続くかどうかを見極めたいですね。もう一つは基軸通貨ドルの動向です。国際社会は戦後、ブレトンウッズ体制などの枠組みを何とか維持してきました。ただ、いまはドルが次のものにとって代わる移行期に差し掛かっているのではないかと感じています。世界をリードしてきた米国の自由主義、資本主義経済のあり方が問われているかもしれません。2021年はドルの価値がどれくらい変動するかに注目するとともに、ドルと金(ゴールド)とをセットでみておくべきです。

 

 

(IRuniverse)