昨年夏以降、国内製造業、素材産業の繁忙、とりわけ鉄鋼、アルミなど自動車向け需要が多い業界では自動車生産増の恩恵を受けてひっ迫状況が続いてきたのだが、ここにきて世界的な半導体不足、国内においては昨年10月に発生した旭化成の宮崎半導体工場における火災事故からの復旧が大幅に遅れていることで自動車各社は減産を余儀なくされている。

 

旭化成の場合

昨年末に産経新聞が報じたところによると

自動車大手各社が年明けに大幅減産を余儀なくされることが30日、分かった。部品に使用する半導体の調達が難しくなるためで、少なくとも3社の生産が来年1月以降、4~5割程度減るとの予測も出ている。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で落ち込んだ自動車生産は、中国や国内が今年9月以降持ち直し、景気回復の牽引(けんいん)役となっている。裾野の広い自動車業界だけに、日本経済への悪影響が懸念される。

 

 自動車大手幹部が明らかにした。今回、減産に影響するのは、横滑り防止装置やハンドル操作を助ける電動パワーステアリングに使われる半導体。横滑り防止装置は、多くのクルマに採用され始めている。

 

 半導体不足は、宮崎県延岡市にある旭化成の工場で10月20日に発生した火災の影響が大きい。旭化成の子会社「旭化成マイクロシステム」の延岡事業所(宮崎県)のクリーンルームから出火。24日に鎮火したが、現場検証が12月30日現在も終わっておらず、自社での生産再開のめどが立たないため、「他社への代替生産を準備中」(広報部)だ。トヨタ自動車や日産自動車、ホンダなどと部品メーカーを通じて取引がある。

 

 半導体不足には、メガサプライヤーの独コンチネンタルが、品質水準への要求が高い自動車向けの納入を避け、「コロナによる巣ごもり需要で、ゲーム機への納入を優先していることも影響している」(大手自動車メーカー幹部)という。また、第5世代(5G)移動通信システム向けの需要が急増していることも調達不足に拍車をかけている。世界最大手の独ボッシュからの納入も減る見通し。

 

 

 すでに独フォルクスワーゲン(VW)、米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)、米フォード・モーターが今月から生産調整に入っているという。

 

 このため、来年1月以降の生産への影響は避けられない見通し。需要の回復が早い中国での生産分に調達した半導体を回すなどして、悪影響を軽減する対応が検討されているもようだ。令和3年3月期の業績予想が今後、下方修正される可能性もある。

 

 とのことだが、例えば日産はNOTE E-POWERの減産が決まっている。

半導体不足でホンダや日産自動車といった自動車メーカーに、減産の動きが出てきた。新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務が普及し、パソコン需要が拡大、さらに第5世代(5G)通信網向けスマートフォンや基地局の整備が進み、自動車向けの半導体が不足してきていることが背景にある。

ホンダの広報担当者は「部品調達に影響が出始めており、生産振替や台数調整などで影響のミニマム化に取り組んでいる」と説明、車種ごとの調整台数の見通しは「精査中」としている。日本経済新聞は、不足しているのは車両制御システムなどに用いる半導体で、鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)で手がける小型車「フィット」を中心に1月に4000台程度を減産すると報じた。

 

日産自動車は半導体不足の影響で、追浜工場(神奈川県横須賀市)で生産する小型車「ノート」を減産する。台数などは明らかにしていない。日経新聞は、1月は5000台規模で減らす方向と報じている。(ロイター通信)

 

また世界的にも

車載用ICが世界で品薄状態にあるのを受け、米国の自動車産業の代表が、台湾の蕭美琴・駐米代表に会い、フォード(Ford)、ゼネラル・モーターズ(GM)、クライスラー(Chrysler)の米自動車3社に台湾が車載用ICを優先供給するよう要請した模様だ。台湾誌『財訊双周刊』が2021年1月6日付で台湾の半導体業界筋の話として報じた。さらに同誌は、独フォルクスワーゲン(Volkswagen)と三菱自動車(Mitsubishi Motors)も台湾総統府に林信義・資政(最高顧問)を訪ね、ファウンドリ世界最大手の台湾TSMC(台積電)から直接、車載用ICを調達できるよう協力を求めたと報じた、とのこと。

 

さらに中国においてもその影響は出ている。

中国自動車工業協会(中汽協)の李邵華・副事務局長は12月初旬、中国の自動車専門誌『汽車縱横』の取材に対し、中国の自動車産業が半導体チップの供給不足に遭遇しているのは事実だとし、2021年1〜3月期に一部の自動車メーカーの生産活動に比較的大きな影響が出るとの見方を示した。ただ、21年通年では、半導体業者が車載向けに生産能力を振り向けることにより、中国国内の自動車製造に与える影響は大きくないとの認識を示した。

中汽協の李副事務局長は自動車メーカー、部品、半導体サプライヤー合わせて約60社に調査したところ、車載チップの品薄状況が存在していることを確認したが、それほど深刻なものではないと指摘。チップ品薄を招いた主因として、自動車市場の先行きに保守的な見通しを持っていた世界の半導体産業では近年、ウェハーの生産能力拡張をそれほど積極的に進めてこなかったこと、欧州と東南アジアの半導体工場が新型コロナウイルスによるロックダウンの影響を受け、チップ生産と出荷が大幅に減少したことを挙げた。さらに、コロナがもたらした在宅勤務やオンライン授業向けIT製品の需要増のしわ寄せを受け、車載チップの品薄が21年に一層、深刻化するとの見通しを示した。

 

台湾の経済紙、工商時報は、自動車部品大手の独コンチネンタル(Continental)と独ボッシュ(Bosch)、自動車メーカーの独フォルクスワーゲン(Volkswagen)が先ごろ、車載用チップの供給不足が中国の自動車製造に大きな打撃をもたらす恐れがあるとの警告を相次いで発したと紹介。マイクロコントローラユニット(MCU)をはじめとする車載チップの品薄により、車載コンピュータに搭載するESP(Electronic Stability Program)とエンジン制御ユニット(ECU)の2つのモジュールが生産できなくなる恐れがあると報じている。

 

こうした世界的な半導体不足が自動車生産、素材産業にダメージを与えることは必至。前述した鉄鋼、アルミといった金属産業にもかなり大きなマイナス影響は及ぶことだろう。伴って、鉄鋼、非鉄金属の国際市況、原料市況も急降下していくことが予想される。一方で半導体不足の深刻化により、半導体、MLCC向けの原料、例えばチタン酸バリウム、タンタル、などは需要は拡大していくことになろう。

 

(IRUNIVERSE)