2021年1月5日

 ドイツとロシアを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」をめぐり、新たな動きが出てきた。海外報道によると、建設プロジェクトに参加するノルウェー本拠の第三者認証機関DNV GLが操業開始に必要な検査・認証を行なう予定だったが、これを停止するという。米上院でこのほど、国防権限法が再可決で成立したことで、DNV GLは米国からの制裁を回避するためと判断したようだ。(地図はガスプロムの公式ホームページから転載)

 

 米上院は1月1日、2021会計年度の国防予算の大枠を定める国防権限法を賛成多数で再可決した。米下院も昨年12月末に再可決済みだったが、トランプ米大統領が拒否権を発動していたため、再可決となった。法案にはノルド・ストリーム2も制裁対象に含まれている。

 

 ノルド・ストリーム2は、バルト海沿岸のウスチ・リガ(ロシア・レニングラード州)とドイツ北部のグライフスバルトを結ぶ、全長約1,200キロメートルに及ぶ天然ガス海底パイプライン・プロジェクトだ。この事業には欧州からEngie、Uniper、OMVなどの大手エネルギー企業が共同で建設にかかわってきた。これに対し、米国はじめウクライナ、ポーランドなどが建設反対の意向を示してきた。

 

 ノルド・ストリーム2の建設について、とりわけ米国は神経質となっている。米上院外交委員会に所属する共和党のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)は公式ホームページで「ロシア主導のノルド・ストリーム2プロジェクトは米国の国家安全保障を脅かすものであり、これを完成させてはならない」と強調。民主党のジーン・シャヒーン上院議員(ニューハンプシャー州選出)も「ロシアがウクライナと欧州のエネルギー自給を脅かしている」と警告するなど、ロシアを牽制してきた。

 

 ロシアへの経済制裁に動く一方、米国はロシア周辺国とのエネルギー分野での関係を強化している。2014年のロシアによるクリミア併合以降、ロシアからの天然ガス依存脱却を急ぐウクライナ政府は昨年5月末、米ルイジアナ・ナチュラルガス・エクスポーツと液化天然ガス(LNG)輸入合意にかかわる覚書(MOU)を閣議決定した。ウクライナは今後、米国産LNGを年間ベースで少なくとも55億立方メートル分を輸入することになった。

 

 一方、ノルド・ストリーム2の完工を見据え、天然ガス関連施設の建設にかかわる計画を発表するなど、ロシアは粛々と敷設事業を進めている。ガスプロムによると、新たな天然ガス複合施設はノルド・ストリーム2の出発点であるウスチ-リガに建設される。天然ガス処理能力は年間450億立方メートルで、ロシア最大級の規模になるという。また、LNGプラントのLNG生産能力は1,300万トン/年で、稼働後にはエタンや液化石油ガス(LPG)などを生産することを明らかにしている。

 

阿部直哉 (「MIRUPLUS」編集代表)

 1960年、東京生まれ。慶大卒。Bloomberg News記者・エディターなどを経てCapitol Intelligence Group(ワシントンD.C.)の東京支局長。2020年12月からIRuniverseが運営するウェブサイト「MILUPLUS」の編集代表に就く。著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。