イギリスに対する大陸封鎖令を発令した際、どの程度の効果が出ているのかを確かめたかった皇帝ナポレオンはコモディティ価格に注目したという。それはロンドン市場の金(ゴールド)とコーヒー価格の推移だった。(画像はYahoo画像から転載)

 

 皇帝ナポレオンは1806年11月、入城したベルリンでイギリスに対し大陸封鎖令を発令し、イギリスを経済的に追い詰めようと試みた。この効果を確かめるため、ナポレオンが注視していたのはロンドンでの金(ゴールド)価格とコーヒー価格の推移だったという。

 

 ヨーロッパではすでにコーヒーが広く飲用され、物価のバロメーターとしての役割もあった。ナポレオンは金価格が高く、コーヒー価格が安ければ封鎖の効果があると踏んでいた。また、砂糖価格の暴騰は代替となるビート(てんさい・砂糖大根)から製糖を作ることが普及するきっかけとなったとされる。

 

 結果的に、大陸封鎖令は人々に不評だった。当時、ヨーロッパ諸国は産業革命後のイギリス製品を輸入し、その依存度が大きかったほか、フランス国内での品不足に民衆の顰蹙(ひんしゅく)も買ったのだ。こうしたなか、1810年にロシアがイギリスと貿易を再開した。

 

 これに激怒したナポレオンはロシア制裁に乗り出す。60万人の兵を率いてロシアに攻め入ったが、冬将軍で悉く打ちのめされ、フランス軍は大敗北を喫した。皮肉にもこの敗北がその後のナポレオン神話崩壊の序曲となった。

 

 

在原次郎

 コモディティ・ジャーナリスト。エネルギー資源や鉱物資源、食糧資源といった切り口から国際政治や世界経済の動向にアプローチするほか、コモディティのマーケットにかかわる歴史、人物などにスポットを当てたリサーチを行なっている。『週刊エコノミスト』などに寄稿。