現在豪州では、NSW州シドニー北部のノーザンビーチと呼ばれる地域にて、小規模クラスターが起きている。このクラスターが発覚してから2週間ほどが経ち、現時点でこのクラスター関連の陽性確認件数は129となっているとのこと(12月29日時点)。国全体として考えると、一応第3波ということになろうか。現時点ではシドニー全域のロックダウンにはなっていないが、該当地域では数日間〜1週間ほどの局地的なロックダウンが敷かれたり、シドニー全体に関してもある程度緩和されていた諸々の規制が再度戻されたりと、市中感染を最小限に抑えるための努力が続けられている。

 

 豪州は、他の多くの国同様、3月終わり頃から新型コロナウイルス第1波によるロックダウンを経験した。自国民と永住者以外には原則的に豪州への扉を閉ざし、帰国者に対しても14日間のホテル隔離を強制、そして出国は政府からの特別許可がない限り禁止(自国民と永住者保持者以外は出国できるが、一度出ると豪州に戻れない)といった、他国からの持ち込みを徹底的に排除する方針をはじめ、国をあげての厳しい措置を経て、おおよその封じ込めに成功したと思われていたが、数ヶ月後、VIC州メルボルンに第2波が襲来。介護施設などで多数のクラスターが起きたこともあり、メルボルンでは7月あたま頃から、 “世界一厳しい”とも評されたロックダウンが3ヶ月あまりも続いた。ようやくこのロックダウンが解除され、市中感染もゼロになり、豪州全体で市中感染ゼロが何日も、あるいは何週間も続くことが普通になってきたところで、12月中旬、今度はシドニーに脅威がやってきた格好だ。

 

 先述したように、現時点でこのクラスター関連の陽性確認件数は100件台前半であり、ウイルスが猛威を振るっている多くの諸外国と比べれば、驚くほど小さい規模である。今朝(12月29日)発表されたNSW州の市中新規陽性確認件数は3件(帰国者のホテル隔離組から出た件数は除く)。ただし豪州はすでに一旦根絶に成功し(たように見え)ており、人々もウイルス・フリー生活に慣れ始めてしまっていたため、この規模でも、国全体の一大事と、最大限の警戒を示している。国としてのゴールは勿論、再び全国で市中感染ゼロの達成を連日続け、国内だけでもウイルス・フリーの日々を送ることであろう。

 

 一方、州政府を見渡すと、基本的にどの州も“州内だけでもウイルス・フリーを”と考えている姿勢が明確だ。今回のクラスターで特筆すべきは、今回の小規模クラスターを受けての各州の反応であろう。クラスターが発覚するや否や、全州がノーザンビーチエリアからの人々の入州拒否を明言したかと思えば、そこから1、2日のうちに、入州拒否、入州規制の対象がシドニー全域、あるいはNSW州全域に広がった(ここでは入州後14日間の隔離が課されることなどを便宜的に入州規制と呼ぶ)。現在、筆者が把握している限りでは、ノーザンビーチ地域を除いたシドニー全域に対し州境を再び開いたのは、NSW州首相の呼びかけにもかかわらずNTノーザンテリトリーだけで、他州はシドニーに対して今も州境を閉ざしているか、あるいは厳しい隔離処置など、何らかの形での規制を続けている。

 

 これは日本で言えば、たとえば関東、関西、東北、四国など、地方、地域ごとに厳格な境界を定め、行き来が可能かどうかを逐一感染状況によって決定しているということになるであろうか。日本ではおそらく、Go Toトラベルの一時停止や県をまたぐ移動自粛の要請などはあっても、国内移動が罰金付きで禁止されたり隔離が課せられたりということは、少なくとも現時点では考え難いのではないかと思う。豪州では、“州”という単位が、もはや国に近い働きをしていると言えるかもしれない。

 

 日本の方針との違いを感じる点はまだまだあるが、もう一点挙げるとすれば、QRコードによるチェック・インシステムと、それに伴う陽性者の行動履歴の公開といった点だろうか。飲食店は勿論、最近では規定がより厳格になったのか、小売店や美術館、ショッピングモールなどもこのQRコードを導入しているところが多く見られる。これらの店・場所を訪れた人は全員コードを読みとり、名前や連絡先などの個人情報を入力してチェックインすることが義務付けられており、これにより、感染者の陽性発覚前の行動を追った時に、立ち寄っていた/働いていた場所に同時間帯に居た人を、濃厚接触者ないしは軽度接触者(casual contact)として州政府側が把握、追跡できる。

 

 

写真

店内に置かれたQRコード

 

 

 感染者の立ち寄った場所も、レストラン、スーパー、デパート、美容院、マッサージ店など、多岐にわたる店舗の詳細が日時と共に連日報道されている。政府は各所に居合わせた人に、接触状況に応じて、例えば“即時検査からの14日間隔離(検査結果にかかわらず)”から、“体調に注意して何らかの症状が出た場合には検査に行くこと”まで、様々な呼びかけを行っている。これは筆者の推測だが、感染への恐怖は勿論だが、それとは別に、この厳格なシステム下において、万が一後になって自分の行った先で陽性者が確認された場合、自身の検査結果は陰性であっても14日間隔離しなければならない、ということで各店舗から足が遠のいている人々も一定数居るのではないだろうか。あるいは、アプリによるチェックインを嫌がる者もいるようだ。偽名やデタラメの電話番号を入力する者が絶えないというような悲しい記事も目にしたし、実際に最近、ショッピングモールにて、某ブランドの店舗に入ろうとした客が、検温とチェックインを求められて、それなら結構と入店をやめる様子も目撃した。

 

 今回のクラスターは、クリスマスや年末年始の休暇と重なったこともあり、多くの人々が、州を越える国内帰省や旅行を諦めなければならない事態となった。幸い爆発的な感染拡大には至っていないが、このまま抑え込めるのかどうか、引き続き注視していきたい。

 

 

(A.Crnokrak)

 

 

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 豪州シドニー在住。翻訳・執筆のご依頼、シドニーにて簡単な通訳が必要な際などには、是非お声がけください→MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

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