エクアドル北西部、コロンビアとの国境に近いサンロレンソの鉱山で18日、土砂崩れがあり、5人が土砂に埋もれて死亡した。世界規模で見ればどこにでも起きる事故のように聞こえるが、この土砂崩れが短いながらも国際的なニュースとして発信されたのは、現場が違法採掘をしている鉱山だったからである。

 

 ニューヨーク・タイムズやロイター通信などによると、土砂崩れは掘って作られた巨大な穴の中で起きた。当時、20人が作業をしていたが、女性4人と12歳の子ども1人が土砂に埋まり死亡した。地元メディアによると現場の採掘穴は直径約70メートル、深さ約40メートルで、崩れた土砂は40立方メートルに及んだという。この穴の底にあった掘削用の重機は土砂にほぼ埋まっている状態だったという。

 

 この違法鉱山では金や銅の採掘が行われており、安全性を無視して作業を続けていたことが土砂崩れの原因だとみられている。

 

 南米では地下資源の違法採掘が1990年代からから始まり、社会問題化している。犯罪グループが組織だって行っていることなどから、当局の取り締まりは効果があがっておらず「現状が最悪の状態」といわれる。

 

 違法採掘の中心となっているのは金だ。人類がこれまでの6000年間で採掘した金は、オリンピックが開ける競泳用プール2つほどだけの量だが、地球に埋蔵されてた金のうちの約4分の3は既に掘り起こされたとされている。

 

 一方で金は、宝飾や電子機器、金融商品として需要は高まるばかり。各国の中央銀行も国家財政のために金を保有するため、巨大な買い手となる。

 

 金の「消費量」は1970年当時に比べ2倍となっているが、供給は減り、需要が増しているため、金の価格は高騰を続ける。

 

 それを犯罪グループが見逃す訳がない。特に南米には、まだ掘り出されていない金鉱脈が多く存在しているため、違法採掘が広がり、巨大なブラックビジネスとして「成長」したのである。

 

 環境保護団体が衛星写真や、住民、ジャーナリストの証言などを元にまとめたデータによると、アマゾンの熱帯雨林を構成する9カ国・地域のうちブラジル、ペルー、ボリビア、コロンビア、ベネズエラ、エクアドルの6カ国だけでも、少なくとも2312カ所の違法鉱山が存在しているとみられる。他のガイアナ、仏領ギアナ、スリナムについてはデータがそろわず数字がはじき出せないが、こちらでも違法採掘が行われている。

 

 金の生産量のうち違法採掘のものの割合はベネズエラが約90%、コロンビアが約80%、エクアドルが約75%にのぼるとの試算もあり、正規に掘られた金と同じように世界中に流通してしまっている。他の産地のものと一緒に精製すれば採掘地など分からなくなってしまうからだ。

 

 組織犯罪グループはコカインなどの麻薬の製造と密輸を主な収入減にしてきたが、コロンビアやペルーでは金の違法採掘で得る収入の方が麻薬売買による収入を上回っていると言われている。世界中で包囲網が敷かれいる麻薬より、金の方が製造や輸送の際のリスクが圧倒的に小さいからだ。

 

 またコロンビアの反政府組織、コロンビア革命軍(FARC)はコロンビア国内だけでなく、エクアドルやペルーでも違法採掘に深く関わっている。2016年にコロンビア政府と和平合意したが、昨年、合意を破棄した。和平の最中も違法採掘に手を染め、今では広範囲で中心的な役割を担っている。

 

 違法採掘というと、現場に何人かが集まって、こそこそとやっているというイメージが湧いてくるが、実態はそんなものではない。違法採掘でひとつの町が誕生してしまうのだ。密林の中に道路が敷設され、貧しい人々が各地からかき集められて居住し、日々、過酷な作業に従事させられる。レストランや雑貨店のほか、売春宿なども設置される。違法採掘のため、元々の居住地を追い出された上に、貧困にあえぎ仕方なく違法採掘現場で働く住民も少なくない。

 

 大規模な採掘は貴重な熱帯雨林を伐採し、有害物質を川に流す。周辺の環境破壊は計り知れず、大きな環境問題になっている。

 

 また、過酷な労働は重大な人権弾圧だ。十分な知識も得られずに危険で汚い仕事に従事する。水銀を含んだ粉末状の鉱石を、マスクなどの防護用品なしで扱い健康被害も甚大だ。

 

 作業員や売春をさせる女性たちを集めるため、人身売買は当たり前の行為だ。児童の強制労働も常態化している。幼いうちはタイヤの交換など機器の保守やレストランなどで働かされ、10代になると体力がつくため最も危険な仕事に回される。

 

 コロンビア中部のアタコでは450〜600人の子供たちが違法採掘の現場で働かされていると、保護団体などが指摘している。

 

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 犯罪グループは重武装しており、暴力で人々を脅し、逃走ができないよう監視している。このため実態はなかなか表に出てこない。

 

 昨年7月、エクアドル政府はコロンビアとの国境に近いエクアドルのブエノスアイレス地区に軍、警察2400人を投入し、大規模な取り締まりを行った。産油国であるエクアドルは原油に頼る経済から脱却し、今後は金やダイヤモンド、希少金属など他の地下資源を国家経済の柱にすることを構想に掲げている。有力な鉱脈があるとみられるブエノスアイレス地区に、違法採掘者が入ってきたのは2017年以降。違法採掘は日に日に拡大していった。エクアドル政府としては、国家財政のためにも、この地での違法採掘は止めさせなければならなかった。

 

 掃討作戦の結果、わずか1800人ほどが暮らしていたはずのブエノスアイレス地区に、違法採掘に携わる約1万人がいたことが分かった。作業員はエクアドル国内だけでなく、ベネズエラ、コロンビア、ペルー、ドミニカ、アルゼンチン、ハイチからも来ていた。

 

 違法採掘を取り仕切っていた武装勢力も排除され、政府による取り締まりは終わったが、住民らはこれで違法採掘がなくなるとは考えていない。政府の役人や軍人、警察官に汚職がはびこっているからだ。汚職はエクアドルだけでなく中南米全体に体質としてこびりついている。資源を奪い環境を破壊する組織犯罪との戦いは、果てしない苦難の道のりだが、最大の敵は「モラルの欠如」であるということを、善良な中南米市民のほとんどが認識している。

 

 

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Taro Yanaka
 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。
 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。
 趣味は世界を車で走ること。
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