米エネルギー情報局(EIA)は今年11月半ば、「Renewables 2020」を発表した。そのなかで、2020年の新設再生可能発電能力が過去最高の約200ギガワット(GW)になるとの予測を示した。他方、2050年までにカーボン・ニュートラルを達成するには取り組みのスピードを加速させることはもちろん、世界全体で年間8,000億ドルの巨額投資が必要との試算も出ている。(イラストはイメージ)

 

アジアの発電量は2050年までに倍増-EIA

 EIAは「International Energy Outlook 2020」でアジアの発電量が2019年から2050年の間で倍増すると予測している。経済協力開発機構(OECD)加盟国以外の天然ガス価格と再生可能エネルギー発電の設備投資コストがアジアのエネルギーミックスに影響を与えるとも指摘。また、石炭と天然ガスが発電エネルギーの主力であり続けるものの、(風力、太陽光、水力などの)再生可能エネルギーの比率が大幅に拡大すると分析している。

 新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大で遅れていた欧州やインドの回復を見据え、2021年は今年以上に再エネ投資が増加すると予想する。20年は電力需要が5%減るなかで、再生可能発電量は7%増加するとみている。また、EIAは風力・太陽光の発電能力が23年に天然ガス火力発電、24年に石炭火力発電を上回ると予測するなど、再エネ導入が世界規模で進むとみている。

 他方、調査会社のRystad Energyは、アジア太平洋地域における再生可能エネルギーによる発電能力が、2020年の517ギガワット(GW)に対し、25年には815GWへと58%増加するとの見通しを公表した。20年から25年の間に陸上風力発電能力が266GWから341GWに増加。太陽光発電能力は215GWから382GWに増加すると予測している。

 Rystad Energyは地熱発電にも注目する。世界の地熱発電能力は2020年の16GWから25年までに24GWに増加するとの予測を発表済みだ。今後5年間で地熱発電施設の建設に250億ドル相当の投資があると見込んでいる。

欧州は50年に洋上風力300GW、米風力プラント新設発電能力は過去最高

 洋上風力発電に注目する欧州諸国。欧州委員会(EC)は11月下旬、「洋上再生可能エネルギー発電戦略」を策定した。洋上風力発電能力を現在の12ギガワット(GW)から2030年までに60GW超に、50年までには300GWを目指すとしている。また、浮体式風力、太陽光由来のエネルギー電力も50年までに40GWを目指す。

 米国でも風力発電への投資が高まっている。EIAによると、2020年の米国における風力発電プラントの新設発電能力が過去最高の23GWになる見通しだ。今年1月~8月の設置能力は5.0GWで、9月から12月に18.5GWが設置される見通しという。過去最高記録は2012年の13.2GWであった。

 このほか、太陽光発電については、調査会社のWood Mackenzieが10月末、2020年における世界の新設ソーラー発電設備の発電能力が前年比5%増の115GWになるとの予測を示した。2025年の新設能力は145GW増と見込む。

IRENA-気候変動目標達成には50年までに年間8,000億ドルの投資必要

 再生可能エネルギー開発が世界規模で進むなか、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は「Global Landscape of Renewable Energy」の2020年版で、「1.5℃」目標の達成には「2050年まで年間8,000億ドルの投資が必要」との分析結果を示した。IRENAによると、世界の再エネへの投資額は2013~18年にかけて増加し、17年にピークの3,510億ドルを付けたという。気候変動問題の解決のため、国際社会は目標達成に向けたスピード感に加え、潤沢な投資資金をいかに集めるかが成否のカギを握っているとも言える。

 

 

阿部直哉 (「MIRUPLUS」編集代表)

 1960年、東京生まれ。慶大卒。Bloomberg News記者・エディターなどを経てCapitol Intelligence Group(ワシントンD.C.)の東京支局長。2020年12月からIRuniverseが運営するウェブサイト「MILUPLUS」の編集代表。

 1990年代に米シカゴに駐在。エネルギーやコモディティの視点から国際政治や世界経済を読み解く。

 著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。