英BPなどの石油メジャーが脱炭素化の戦略強化に舵を切るなか、TrafiguraやVitolといった大手石油トレーダーも活発な再エネ投資活動を展開している。(写真はイメージ)

 

 Trafigura Groupは機関投資会社のIFM Investorsとともに太陽光や風力などの再生可能エネルギープロジェクトに投資する合弁会社「Nala Renewables」を新設した。Nalaは既存の再エネプロジェクトに加え、新規プロジェクトを対象に今後5年以内に累積容量で2ギガワット(GW)級のプロジェクトを立ち上げると予定だ。

 

 計画によると、Trafiguraがグループ展開する世界各地の鉱業や港湾などの関連施設に隣接する場所に新たな設備を設置、そこで発電した電力を供給するとしている。2025年までに約20億ドルを投資する見通しであることを公表済みだ。

 

 Trafiguraはまた、グリーン水素生産を手がける独Hy2genの株式を取得し、エネルギー貯蔵技術に投資するための企業も設立したという。このほか、船舶燃料に炭素賦課金制度を導入するよう、国際海事機関(IMO)に提案するなど、脱炭素に向けた動きを本格化している。同社のJeremy Weir最高経営責任者(CEO)は鉱業、石油・天然ガス事業に加え、再生可能エネルギーを事業の3本柱にすると表明している。

 

 世界最大手の独立系エネルギートレーダーである Vitol は水素事業と電力貯蔵事業に投資している。また、スイスのトレーダーのMercuriaも北米の再エネプロジェクトに投資会社とともに15億ドルを投入していることを明らかにしている。

 

 このほか、スイスのトレーダーGunvorは12月初旬、バイオディーゼル取引事業に5億4,000万ドルの融資枠を確保したと発表した。バイオディーゼルの貯蔵事業や、スペインのバイオ燃料処理プラント2基の建設に充てる計画としている。

 

 ところで、今後の石油需要見通しについて、Rystad Energyは11月初旬、需要量のピークが2028年の日量1億200万バレルとの予測を公表。新型コロナウイルスの感染拡大以前は30年の同1億600万バレルと予測していた。同社は今年の原油生産量を19年の同9,960万バレルに対して同8,930万バレル、21年は同9,480万バレル、23年に同1億バレル台になると分析している。

 

 他方、再生可能エネルギー向け投資の見通しについては、Wood Mackenzieが試算を公表済みだ。それによると、アジア太平洋地域の2030年までの太陽光・風力発電向け投資額で1兆ドルに対し、化石燃料発電への投資額は5,000億ドルと予測。こうしたトレンドはさらに加速しそうな勢いだ。

 

阿部直哉 (「MIRUPLUS」編集代表)

 1960年、東京生まれ。慶大卒。Bloomberg News記者・エディターなどを経てCapitol Intelligence Group(ワシントンD.C.)の東京支局長。2020年12月からIRuniverseが運営するウェブサイト「MILUPLUS」の編集代表。

 1990年代に米シカゴに駐在。エネルギーやコモディティの視点から国際政治や世界経済を読み解く。

 著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。