フィンランドの独立系石油会社で、バイオ燃料事業にも注力するネステが米国の航空3社にサステナブルジェット燃料を供給するほか、スペインのエネルギー大手であるレプソルが国内で初めてバイオ航空燃料を生産するなど、欧米を中心にバイオ燃料にかかわる研究・開発が進んでいる。(画像はネステの公式ホームページから引用)

 

 まず、フィンランドのネステは今年8月半ば、アラスカ航空、アメリカン航空、ジェットブルー航空の米3社に持続可能なジェット燃料を供給すると発表した。3社は今後、サンフランシスコ国際空港から離陸する便にネステの燃料を使用することになる。

 

 ネステはこのほか、輸送用燃料の新規研究プロジェクトに着手したことを明らかにしている。同社は今年6月、輸送用燃料、石油化学製品、ポリマー向けの再生可能基材の新規研究プロジェクトをスタートした。森林・農業残渣、都市ごみ、藻類、廃プラスチック、二酸化炭素(CO2)などの再生可能原料を利用し、原油消費量の削減と気候変動対策を目指す。今年5月末には、ネステは独コベストロとプラスチック向け再生可能原料にかかわる提携に踏み切っている。

 

 スペインのエネルギー大手レプソルはこのほど、同国の中南部シウダー・レアル県にあるプエルトリャノ製油所でバイオ燃料を含む航空燃料を7,000トン生産した。スペイン国内で初めてのケースとなる。製品にかかわる品質検査に合格したことを受け、レプソルは今後、バイオ航空燃料の生産拠点をプエルトリャノ製油所以外にも拡大していく方針だ。同社は、温室効果ガス(GHG)排出量ゼロを2050年までに達成する目標を掲げている。バイオ燃料事業の拡張が早期の目標達成に寄与すると見込む。

 

 他方、ルクセンブルクに本拠を置く浚渫船建設会社のヤン・ドゥ・ヌル・グループは6月18日、バイオ船舶燃料の試験を完了したことを明らかにした。100%第2世代バイオ燃料を浚渫船「アレクサンダー・フォン・フンベルト号」で2,000時間使用したという。CO2排出量の削減率は85%。今回のプロジェクトは、船舶技術会社MANエナジーソリューションズ、再生可能燃料会社のグッドフューエルズと連携して進められた。

 

 米国に目を向けると、エネルギー省(DOE)がバイオエコノミーの発展に向け、バイオ関連の研究・開発に9,700万ドルを助成する。対象となるのは、バイオ燃料、バイオエネルギー発電、バイオマスや廃棄物を利用した化学品の生産などだ。DOEは30を超すプロジェクトを資金面でサポートする。

 

 米エネルギー情報局(EIA)は7月24日、「State Energy Data System」(SEDS)を発表し、州別のバイオディーゼル生産量の推計の公表を開始した。2018年の州別バイオディーゼル生産量は、アイオワ州が第1位で870万バレル、第2位がテキサス州(540万バレル)と続く。一方、消費量の第1位はテキサス州で790万バレルとなっている。

 

 EIAはこれまで、州別、プラントごとのバイオディーゼル生産能力のデータを公表していたが、SEDSには2001年から18年までの州別のバイオディーゼル生産量、消費量のデータが含まれているという。

 

 バイオ燃料開発にかかわる欧米の最新情報を紹介してきたが、投資判断を延期する動きもみられる。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大にともなう燃料需要の減退見通しのほか、環境に負荷を与えるといった観点から事業の見直しもある。

 

 スウェーデンのストックホルムに本社を置く大手電力・エネルギー会社のバッテンフォールは6月下旬、オランダのディーメンに建設予定のバイオマス発電所(120メガワット規模)プロジェクトの投資判断を再検討することを明らかにした。周辺住民や環境保護団体などが建設反対運動を起こしているのが理由という。同社は今後、の話し合いを続けていくとする一方、最終投資判断(FID)を来夏以降に延期する見通しを示した。

 

阿部直哉 (「MIRUPLUS」編集代表)

 1960年、東京生まれ。慶大卒。Bloomberg News記者・エディターなどを経てCapitol Intelligence Group(ワシントンD.C.)の東京支局長。2020年12月からIRuniverseが運営するウェブサイト「MILUPLUS」の編集代表。

 1990年代に米シカゴに駐在。エネルギーやコモディティの視点から国際政治や世界経済を読み解く。著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。