米ニューヨーク市に清水寺があったら今年の一文字を「閉」としたかもしれない。年の瀬のマンハッタンを歩いて、そんなことが頭をかすめた。街には休業、廃業のオフィス、店舗の姿があちこちで見られ、特に長くニューヨーカーに親しまれた店の閉鎖が目立つ。新型コロナ感染防止で厳しい営業規制を強いられたレストランは、一旦、認められた屋内営業がクリスマス前に再び禁止され、店内から客を締め出す事態に陥った。「どんな不況でもマンハッタンだけは賑わっている」という神話は崩れ去り、ニューヨーカーにとって憂鬱なホリデーシーズンとなった。

 

 今のニューヨーク市で最も目につくのは真冬だというのに外で食事をする市民の姿だ。撮影した時のニューヨーク市の気温はマイナス1度。少々寒くても外で食べる習慣があるニューヨーカーだが、食事するにはさすがにこたえる気温である。

 

 ニューヨーク市では新型コロナ感染防止のため、3月にレストランの屋内営業を禁止した。コロナ対策の第一弾ともいえる大規模な規制だった。規制導入のタイミングでニューヨーク市内にいたが、中心地タイムズスクエアから人の姿が消えた衝撃は忘れられない。

 

 レストランは持ち帰りや出前だけで細々と営業を続けた。秋になり、入店人数を制限した上での屋内営業が再開されたが、クリスマス前の今月14日から再び、屋内スペースを閉めることとなった。屋外と持ち帰り、出前だけである。

 

 このため普段は外にテーブルを置かない店までが屋外に席を設けている。ニューヨーク市は車道にはみ出しての営業も許可しており、写真右の屋台のような飲食スペースが市内のあちこちにある。寒さ対策でビニールなどで覆いをし、ストーブを持ち込む店もある。出来栄えが良く快適空間になるほど密閉性が高くなり、感染防止にならなくなってしまうケースも散見される。

 

 

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 ブロードウェイの劇場街はタイムズスクエアと一体となっているが、3月に劇場が閉鎖されてからショーは上映されていない。少なくとも来年5月までは閉鎖したままだ。劇場街には多くのホテルが立ち並ぶが、観光客が訪れることがないため、閉鎖するホテルが後を絶たない。

 

 劇場街だけでない。グランドセントラル駅近くにあるニューヨーク市を代表するクラシックホテル、ルーズベルトホテル(1924年開業)が10月いっぱいで営業を終了した。第26代大統領のセオドア・ルーズベルトにちなんで名付けられたホテルで、オリバー・ストーン監督の映画「ウォール街」など数々の映画のロケ地としても知られている。

 

 リーマンショックなど時代の波を乗り越えてきた名門ホテルも、新型コロナによる衝撃波をかわすことができず、100年近い歴史を閉じた。

 

 

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 ホリデーシーズンの週末、ニューヨーク市のヘラルドスクエアにあるデパート、メーシーズの周辺は買い物客で賑わっていた。路上で雑貨を売る業者が例年より多く、施しを求めるホームレスの姿もある。

 

 メーシーズはクリスマスに合わせて病気で苦しむ子供たちを支援する活動をしている。メーシーズの外壁には「Believe 」と記されたイルミネーションが輝くが、新型コロナで将来を信じることができない市民には、虚しさばかりが胸に残る。

 

 

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 メーシーズの向かい側に目を転じるとエンパイアステートビルが瞳に飛び込んで来る。毎晩のライトアップが市民を楽しませてるが、この季節は緑と赤のクリスマスカラーに彩られる。突端部分は赤、白、青の米国旗カラーだ。

 

 写真左のビルには1階に女性向けインナーウエア販売のビクトリアズ・シークレットの旗艦店があったが撤退した。インターネット時代でありながら、店舗での販売にこだわりを持つ経営で知られている同社のこの決断は、小売業のニューヨーク離れの象徴である。

 

 小売業は新型コロナでダメ押しを食らった。

 

 米国で最も古いデパート、ロード・アンド・テイラーは昨年、ニューヨーク5番街の店を閉め、再起を模索したが、今年8月、新型コロナの影響から事業継続を断念し、全米の店舗を閉鎖することを決めた。

 

 また、世界貿易センタービルの近くにあったデパート、センチュリー21も閉店。ブランド品を格安で販売することでニューヨーカーのみならず、観光客にも人気が高かった。

 

 日本の三井不動産がマンハッタンの再開発として手がけ、2年前に誕生した商業施設ハドソンヤードに入ったデパート、ニーマン・マークスも撤退を決めた。ニューヨーク初進出として注目されたが、変わり身は早かった。

 

 ニューヨーク・タイムズ紙は8月11日に「小売チェーンはマンハッタンを見捨てた」と題した記事を掲載し、ニューヨーク市内では商売が成り立たない実態を紹介した。この中でニューヨークを代表するレストランの経営者は「ニューヨークでビジネスをする理由がない」と話している。ニューヨーク市内を歩けば、言葉の意味がよく理解できる。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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