一般に資源大国とは認知されていないパキスタン。そのパキスタンの中にも豊かな地下資源を誇る地域がある。パキスタン南西部に位置するバローチスタン州である。

 

 バローチスタンとはイラン系少数民族バローチ人の土地を意味する。バローチスタンは盆地帯であり、その地形はかつてインド亜大陸とユーラシア大陸の衝突の名残を見せる。その地質学的特性は豊富な鉱物資源の存在を示す。バローチスタンの鉱物資源に関する論文によれば、タングステン、クロム、鉄、銅、金等々を産出し、大理石に代表される建築用石材も豊富だ。

 

 そして化石燃料の石炭、石油、天然ガスも産出する。豊富な資源を誇るバローチスタンは一方でパキスタン屈指の民族紛争地帯でもある。かつて現在のバローチスタンの領域内にカラート王国というイギリス領インド帝国を構成する半独立国家が存在した。インド・パキスタンの分離独立が決定的になると、カラート王国の国王始め独立派は独立に向けた準備を開始した。しかし、パキスタンはイギリスとの交渉によりバローチスタンにおける保護権を継承することになった。イギリス式の行政機構はパキスタン勢力に握られており独立は困難となった。最終的にパキスタン建国の父ジンナーはカラート王にパキスタンへの併合に関する文書への調印を強要。同時にバローチ民族主義者を大勢逮捕し民族主義政党をパキスタン全土で非合法化した。バローチスタンのパキスタンへの編入における一連の流れについてバローチ民族主義者はジンナーがバローチスタン独立の合法性を認識していたにも併合を強行したと主張する。それゆえバローチスタンは建国以来、民族紛争の絶えない地域となった。ここ数十年はパキスタンの伝統的同盟国である中国が、豊富な地下資源に目をつけ進出をしてきた。習近平指導部が「一帯一路」構想を掲げてからは、「中パ経済回廊(CPEC)」の名で資源開発含む様々な開発計画が進められている。それが新たな紛争の種となっている。

 

 バローチ民族主義者のニュースサイトは豊富な資源が逆にバローチ民族の敵であると論ずる。資源故にパキスタン政府による圧迫と外国の介入を招くからだ。中国は都合いい同盟国にある宝の山を見過ごすはずもなかった。中国は特にバローチスタンの貴金属を渇望する。中国の草刈り場としてはセインダク鉱山が有名だ。金と銅を産出する銅山であり、中国の半国営鉱業企業の中国冶金科工集団有限公司(中冶集団)が開発を担当している。

 

 収入配分はパキスタン側と中冶集団で「取り半」で、中央政府はその中の数割を地元へ還元する形式だ。7月、バローチスタン州政府は中冶集団との契約を更新し、22年10月に失効予定であった試掘・採掘許可を15年延長することを許可した。同じく豊富な金銅の埋蔵量が期待されるリコーディック鉱山も中国は浸食する。

 

 

写真

(リコーディック金銅山の採掘場 現地の鉱山労働者提供)

 

 

 この金銅山は当初オーストラリアの資源メジャーBHPビリトン社が開発に着手した。収入配分はBHPが75%、25%を中央政府が取得することとなった。その後チリとカナダの鉱業企業の合資企業テチャンが開発を引き継ぐことになった。そのテチャンもパキスタン最高裁により契約を違法と判決を受け、中国が進出する素地が作られた。バローチスタン州政府は中国の一帯一路に協力するためリコーディック鉱山を中国企業にも門戸開放した。衛星写真の分析によれば中国側が急速に同鉱山の開発を進めていることが確認できる。

 

 バローチ人はこうした中国による資源の収奪を座視していない。州都クエッタ郊外にはクロム鉱山があり、多くの利益と雇用を地元にもたらしている。中国も食指を伸ばしているかと思いきや中国企業の進出は聞かない。現地野党関係者によれば、地元政府が中国企業の操業を許可していないのがその理由だ。

 

 中国主導の開発が地元民に恩恵をもたらせば、バローチ人も多少の資源収奪に目をつぶることになるかもしれない。3日、パキスタン議会内の委員会はこの数年CPECにいかなる進展も見られないと報告した。議員は、経済特区を中心に地元へ電気、ガスの供給網を確立するという計画は単なる茶番と断じた。

 

 かくしてバローチスタンでは中国人また関連する施設を狙ったテロが頻発するようになった。

 

 バローチスタン解放軍(BLA)はCPEC関連の施設を襲撃することで最近国際的知名度を高めている。前述のセインダク鉱山も標的にしている。2015年、同開発区からの石油タンクローリーが襲撃される事件が発生したが、BLAが襲撃を実行したとの犯行声明を発した。目立っているからバローチ民族主義者、独立派の主流というわけではない。バローチ人は古来より勇敢な戦士として知られ、その時々のインド亜大陸支配者に戦闘員を供給してきた。例えばイギリス指揮下の英印軍のバローチ連隊は勇猛さで知られ、遠く中国の太平天国の乱鎮圧にも参加したことが記録される。バローチ民族主義者の中にもその流れをくむ武闘派がおり、BLAはその一角を占めているに過ぎない。バローチ人の中でも彼らの武装闘争に関しては是々非々の意見が聞かれる。バローチ民族主義者は穏健派と急進派。政治姿勢を問わず、党派は部族により分断されることが多い。当然バローチ人の中にはバローチスタン・アワミ党に代表されるように、中央政府と中国による資源開発を支持する勢力もいる。天然資源が大国に狙われることで現地の民族の発展、福利向上より紛争に繋がる例は、これまで多くの発展途上国で見られてきた。とりわけ中国の現地政府を抱き込み

 

 地元民の民意を無視するやり方は、民族・資源紛争を激化させている。

 

 

(IRUNIVERSE Roni Namo)

 

 

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Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受け、恐らく日本で唯一クルドを使える日本人になる。今年7月に日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。。

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